かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

海外文学

『本を読む女(ひと)』

『本を読む女(ひと)』書肆盛林堂 書肆盛林堂《ゾラン・ジヴコヴィチ ファンタスチカ》第2弾! 会いたい、会いたいと思っていた女(ひと)にようやく会えた。 時折こんな風につぶやいてしまうぐらい会いたい女(ひと)だった。旧ユーゴスラビアのベオグラ…

『きつね』

きつね 作者:ドゥブラヴカ・ウグレシッチ 白水社 Amazon 『きつね(Lisica)』はユーゴスラビア出身のクロアチア語作家ドゥブラヴカ・ウグレシッチ(1949−2023)が2017年に発表した長編小説だ。長編小説ではあるが構成は6部立てで、各部は作者を思わせる語…

『夏のサンタクロース』

夏のサンタクロース: フィンランドのお話集 (岩波少年文庫 259) 作者:アンニ・スヴァン,ルドルフ・コイヴ 岩波書店 Amazon むかし、ひとりの男がいて、息子が三人ありました。息子たちは大きくなると、お父さんに向かって、こういいました。 「のくたちに、…

『新編 不穏の書、断章』

新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー) 作者:フェルナンド・ペソア 平凡社 Amazon アントニオ・タブッキは、私が愛してやまない作家の一人だ。彼はイタリア人であったが、ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソアを敬愛していて、イタリアにペソアの作品を…

『吹きさらう風』

吹きさらう風 (創造するラテンアメリカ) 作者:セルバ・アルマダ 松籟社 Amazon 嫌な音は何キロも前からしはじめていた。その前の晩にトスタードの小さな宿に着いたときは、もう聞こえていた。 レニは、出発する前に点検してもらおうと言ったが、牧師は聞く耳…

『十六の言葉』

十六の言葉 作者:ナヴァー・エブラーヒーミー 駒井組 Amazon 誰しも人生で最初に覚える言葉がある。その言葉が見事にわたしを不意打ちにした。ちょうど、ここで取りあげる十六の言葉と同じように。その言葉から身を守ることは、ただの一度も成功したことがな…

『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』

ようこそ、ヒュナム洞書店へ (集英社文芸単行本) 作者:ファン・ボルム 集英社 Amazon ソウル市内の閑静な住宅街にオープンした「ヒュナム洞書店」。店主のヨンジュは30代の女性で、なにやら“訳あり”であることは、青白い顔をして店に座りこみ、時折涙を流…

『夜の潜水艦』

夜の潜水艦 作者:陳 春成 アストラハウス Amazon 1990年生まれ。デビュー短編集『夜晩的潜水艇』で中国版本屋大賞を受賞したという福建省出身の若手作家の作品集。収録作品は、夜の潜水艦/竹峰寺 鍵と碑の物語/彩筆伝承/裁雲記/杜氏/李茵の湖/尺波…

『わたしの心のきらめき』

わたしの心のきらめき (鈴木出版の児童文学 この地球を生きる子どもたち) 作者:シャロン・M・ドレイパー 鈴木出版 Amazon わたしの脳は、数字や地図、できごとや計算を正確に記憶する。それに雑学ならだれにも負けない。たとえば、アラスカやアルゼンチン、…

『私と言葉たち』

私と言葉たち 作者:アーシュラ・K・ル=グウィン 河出書房新社 Amazon 原題は“Words Are My Matter”(2016)2000年~2016年の間に書かれたエッセイや書評の他、1994年の特別な1週間の日記が収録されている。同じエッセイ集でも先に読んだ 『暇なんかないわ 大…

『長い物語のためのいくつかの短いお話』

長い物語のためのいくつかの短いお話 作者:ロジェ・グルニエ 白水社 Amazon 2017年98歳でこの世を去ったフランスの小説家、ロジェ・グルニエの生前最後の短編集。その老人は、自らの人生を振り返って自分を罰することを決意し自殺をはかろうとしたのだ…

『オープン・ウォーター』

オープン・ウォーター 作者:ケイレブ・アズマー・ネルソン 左右社 Amazon サウスイースト・ロンドンの地下にあるハブで、初めてきみと彼女が出会ったとき、きみたちは結ばれるにちがいないと確信した。アイズレー・ブラザースのアップテンポの曲をバックに、…

『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』

歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術 作者:トマス・エスペダル 河出書房新社 Amazon 徒歩で一人旅した時程。完全に存在し、徹底的に生き、ありのままの自分でいられたことはなかった。と言ったのはルソーで魂とは、大道を歩む旅行者だと言…

『そこに私が行ってもいいですか?』

そこに私が行ってもいいですか? 作者:イ・グミ 著 里山社 Amazon タイトルと優しい色合いの表紙に惹かれて手にした本。韓国YA文学を牽引する作家によって書かれ、IBBY(国際児童図書評議会)のオナーリストに選定された作品だと聞いていたから、読み応…

『マナートの娘たち』

マナートの娘たち (海外文学セレクション) 作者:ディーマ・アルザヤット 東京創元社 Amazon 原題は“Alligator and Other Stories”(2020)、シリア系アメリカ人作家のデビュー短編集。私の訳者読みリストの上位にお名前のある小竹由美子さんの翻訳で、ち…

『西の果ての白馬』

西の果ての白馬 作者:マイケル・モーパーゴ 徳間書店 Amazon イギリスの南西のはしにはコーンウォールという名の半島があって、その半島の先端近くにゼナーという小さな村がある。この本にはこの村を舞台にした5つの物語が収められている。こんな話だ。毎年…

『五月 その他の短篇』

五月 その他の短篇 作者:アリ・スミス 河出書房新社 Amazon あるところに男がいて、墓場の隣をねぐらにしていた。 いや待て。ちがうな。なにも男と決まっているわけじゃない。この話にかぎって言えば、女だ。あるところに女がいて、墓場の隣をねぐらにしてい…

『文學の実効 精神に奇跡をもたらす25の発明』

文學の実効 精神に奇跡をもたらす25の発明 作者:アンガス・フレッチャー CCCメディアハウス Amazon 小説や詩を読んで心が癒された。そうした経験を持つ人は多く、「文学は心に効く」とはよく言われることである。しかし、それは本当なのか?文学作品が人間の…

『ヘンリー・ライクロフトの私記』

ヘンリー・ライクロフトの私記 (光文社古典新訳文庫) 作者:ギッシング 光文社 Amazon ヘンリー・ライクロフト54歳。ペン一筋、いつもかつかつの生活をおくってきた彼は、50の坂にさしかかり健康を損ねていたのだが、亡くなった友人がその遺産として、年…

『十三号キャビンの女』

十三号キャビンの女 エマ・グリフィン FBIミステリーシリーズ 作者:A.J. Rivers レッドサン合同会社 Amazon FBI捜査官のエマ・グリフィンは、潜入捜査の目的で小さな田舎町フェザードネストにやってきた。今回の任務は、静かでのどかなはずのこの町で…

『私たちが記したもの』

私たちが記したもの (単行本) 作者:チョ・ナムジュ 筑摩書房 Amazon 『82年生まれ、キム・ジヨン』で感銘を受けて以来、著者の作品は既に何作か読んできて、その都度、素晴らしい作家だと思ってきたにもかかわらず、今回もまたあの『82年生まれ…』の作家の短…

『終わりなき夜に生まれつく』

終りなき夜に生れつく (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) 作者:アガサ・クリスティー 早川書房 Amazon この作品、10代半ばに読んだはずだが、覚えているのはタイトルとタイトルの元になった歌の歌詞だけ。 夜ごと朝ごと幸せと喜びに生まれつく人あり幸せと…

『その昔、N市では』

その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選 作者:マリー・ルイーゼ・カシュニッツ 東京創元社 Amazon 戦後ドイツを代表する女性作家マリー・ルイーゼ・カシュニッツ(1901-1974)の作品を集めた日本オリジナル短篇集。200頁ちょっとと比較的薄め…

『無垢なる聖人』

無垢なる聖人 作者:ミゲル・デリーベス 彩流社 Amazon 原題は“Los Santos Inocentes”1981年に20世紀のスペインを代表する作家の一人ミゲル・デリーベス(1920-2010)によって書かれたこの物語は、1984年にマリオ・カムス監督によって映画…

『父から娘への7つのおとぎ話』

父から娘への7つのおとぎ話 作者:アマンダ・ブロック 東京創元社 Amazon 建築事務所で非正規事務職員として働くレベッカは、雇用主から正規雇用契約を打診されていたが、なかなか決心をつけられずにいた。そんな彼女の前に<サイド・スクープ>の記者を名乗…

『十一月の嵐』

十一月の嵐 (フラバル・コレクション) 作者:ボフミル・フラバル 松籟社 Amazon 7年ぶりに刊行されたフラバルコレクションとあっては読まないわけにはいかない。このコレクション、作家の自伝的要素の強い作品が続いていたので、『時の止まった小さな町』の…

『時の止まった小さな町』

時の止まった小さな町 (フラバル・コレクション) 作者:ボフミル フラバル 松籟社 Amazon 人文系専門書を中心に出版活動を続けているという京都の出版社松籟社さんの「フラバル・コレクション」第3弾は、前作『剃髪式』の後日譚。続編ではあるが、『剃髪式』…

『剃髪式』

剃髪式 (フラバル・コレクション) 作者:ボフミル・フラバル 松籟社 Amazon 本作はチェコの作家ボフミル・フラバルによる中編小説。人文系専門書を中心に出版活動を続けているという京都の出版社松籟社さんの「フラバル・コレクション」第2弾だ。ボフミル・…

『深夜プラス1』

深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1)) 作者:ギャビン・ライアル 早川書房 Amazon 例によって例のごとく津村記久子さんの 『やりなおし世界文学』からの派生読書。といっても『やりなおし…』を読み終えた時点では、この作品、読みたい本のリストの…

『厳重に監視された列車』

厳重に監視された列車 (フラバル・コレクション) 作者:ボフミル・フラバル 松籟社 Amazon 時は1945年、物語の舞台は、ナチス支配下のチェコの小さな駅だ。主人公は、交通職員見習のミロシュ。恋人との初体験が上手くいかなかったことを苦にして、自殺未…