かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

海外文学

『私の唇は嘘をつく』

私の唇は嘘をつく (二見文庫 ク 12-2) 作者:ジュリー・クラーク 二見書房 Amazon 詐欺師のメグと彼女に復讐を誓うジャーナリストのキャット。十年前に何があったのか、はっきりとは明かされないまま、物語は幕を開ける。メグとキャット、それぞれのパートに…

『悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集』

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫) 作者:コルタサル 岩波書店 Amazon 数年越しの積読本を読んだ。長く積んでいる本の中には、積んだ理由さえはっきりしなくなっているものも多いのだが、この本の場合ははっきり覚えている。それは…

『路上の陽光』

路上の陽光 作者:ラシャムジャ 書肆侃侃房 Amazon 先頃読んだアンソロジー『絶縁』に収録されていた書き下ろし作品「穴の中には雪蓮花が咲いている」が素晴らしかったので、読みたい本のリストの順番を繰り上げて手に取った本書は、チベット人作家ラシャムジ…

『明るい夜』

明るい夜 (ものがたりはやさし) 作者:チェ・ウニョン 亜紀書房 Amazon 心というものが取り外しのできる体内の臓器だったなら、胸の中に手を入れて取り出し、温かいお湯で洗ってあげたかった。そして隅々まですすいで水分をタオルで拭き取り、日当たりと風通…

『図書館』

『図書館』ゾラン・ジヴコヴィチ著/渦巻栗訳(書肆盛林堂) はじめてゾラン・ジヴコヴィチに出会ったのは、忘れもしない2011年に東京創元社が刊行した21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 『時間はだれも待ってくれない』でのことだった。ここから…

『辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿』

辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿 (文春e-book) 作者:莫理斯(トレヴァーモリス) 文藝春秋 Amazon この小説は香港人である私からシャーロック・ホームズへの恋文であると同時に、シャーロキアンである私から香港へのラブレターでもあります。著…

『華語文学の新しい風 (サイノフォン)』

華語文学の新しい風 (サイノフォン) 白水社 Amazon “サイノフォン”という聞き慣れない言葉と、劉慈欣の名前に惹かれて手にした本。なんでも華語文学の新たな流れを紹介する白水社の新シリーズの第1巻なのだそう。 サイノフォン(華語語系文学/Sinophone Li…

『ホメーロスのイーリアス物語』

ホメーロスのイーリアス物語 作者:バーバラ・レオニ ピカード 岩波書店 Amazon ホメーロスの二大叙情詩『イーリアス』と『オデュッセイア』が、ギリシアとトロイア(イーリアス)との間の長い戦争にまつわる物語であることや、『イーリアス』がアキレウスを…

『平凡すぎる犠牲者』

平凡すぎる犠牲者 (創元推理文庫) 作者:レイフ・GW・ペーション 東京創元社 Amazon それは確かに誰から見てもありふれた事件のように思われた。元々知り合いだったアル中(最近では“社会的に孤立している”とかいうらしい)の二人が、一緒にちょっと食事をし…

『見習い警官殺し』

見習い警官殺し 上 〈ベックストレーム警部シリーズ〉 (創元推理文庫) 作者:レイフ・GW・ペーション 東京創元社 Amazon 見習い警官殺し 下 (創元推理文庫) 作者:レイフ・GW・ペーション 東京創元社 Amazon 以前読んだ同じ作者による『許されざる者』がとて…

『瞬間』

瞬間 作者:ヴィスワヴァ・シンボルスカ 未知谷 Amazon ポーランドの詩人ヴィスワヴァ・シンボルスカ(1923~2012)が2002年にまとめた詩集の全訳。1996年にノーベル文学賞を受賞した後、初めて刊行された詩集でもある。翻訳は『終わりと始ま…

『終わりと始まり』

終わりと始まり 作者:ヴィスワヴァ・シンボルスカ 未知谷 Amazon 詩を読むのは好きだ。気に入った詩に出会うと選び抜かれた言葉とリズムを声に出して読みたくなる。だから、詩集を読むときはできるだけ一人になって、静かな部屋で読むのがいい。詩は書かれた…

『許されざる者』

許されざる者 (創元推理文庫) 作者:レイフ・GW・ペーション 東京創元社 Amazon 国家犯罪捜査局元長官のラーシュ・マッティン・ヨハンソンは、好物のホットドッグを手にしたまま脳塞栓で倒れ、一命はとりとめたものの右半身に麻痺が残ってしまう。激しい頭痛…

『グッバイ・クリストファー・ロビン:『クマのプーさん』の知られざる真実』

グッバイ・クリストファー・ロビン:『クマのプーさん』の知られざる真実 作者:アン・スウェイト 国書刊行会 Amazon 著者のアン・スウェイトはイギリスの著名な伝記作家で、東京女子大学で教鞭をとったこともあるのだそう。中でも「A.A. Milne: His Life」(…

『思い出のスケッチブック』

思い出のスケッチブック:『クマのプーさん』挿絵画家が描くヴィクトリア朝ロンドン 作者:E・H・シェパード 国書刊行会 Amazon もしもプーさんにあの挿絵がなかったなら……。なんだかちょっと想像できない。だってほら、もしもA.A.ミルンの『クマのプーさん』…

『セルリアンブルー 海が見える家 下』

セルリアンブルー 海が見える家 下 (マグノリアブックス MB 46) 作者:T.J.クルーン オークラ出版 Amazon 魔法青少年担当省(ディコミー)に所属するケースワーカー、ライナス・ベイカーは、ある日突然、最上級幹部たちに呼び出され、最高機密レベル4の任務…

『セルリアンブルー 海が見える家 上』

セルリアンブルー 海が見える家 上 (マグノリアブックス MB 45) 作者:T.J.クルーン オークラ出版 Amazon タイトルや装丁から、人生に疲れた大人が癒やされるような、ファンタジーだと思いこんでいたから、主人公が40歳の男性だと知っても、さほど驚きはし…

『消えたソンタクホテルの支配人』

消えたソンタクホテルの支配人 (YA!STAND UP) 作者:チョン ミョンソプ 影書房 Amazon 1910年の韓国併合によって日本の植民地支配がはじまる3年前、1907年に実際に起きたある事件を元に創作された韓国のYA小説。舞台は漢城(ハンソン:現在のソウ…

『パラディーソ』

パラディーソ 作者:ホセ・レサマ=リマ 国書刊行会 Amazon 「ラテンアメリカ文学不滅の金字塔」「20世紀の奇書にして伝説的巨篇」「翻訳不可能と言われた幻のキューバ文学」そんな風に言われたら、手を伸ばさずにはいられない。と、手に取ったはいいが、不用…

『チャタレー夫人の恋人』

チャタレー夫人の恋人 (光文社古典新訳文庫) 作者:D・H・ロレンス 光文社 Amazon 上流階級の令夫人が領地の森番と契りを結び、道ならぬ恋へと突き進むこの小説を一文でまとめてしまうと、極めて陳腐な恋物語にしか思えない、だがしかし……と、訳者はまえが…

『バーナデットをさがせ!』

バーナデットをさがせ! 彩流社 Amazon アメリカの人気テレビ脚本家が書き、2019年にケイト・ブランシェットの主演で映画化もされていると聞いて、「トレンディ系の作品ね」と軽い気持ちでページをめくる。「横書きか~。ちょっと読みつけないな」などと思い…

『処刑の丘』

処刑の丘 作者:ティモ・サンドベリ 東京創元社 Amazon 銃声がヒルダの夢の中に割り込んできた。彼女ははっと上体を起こし、慌てて息子のベッドを確認するも空だった。不安に胸を締めつけられて、ドアの側面に寄りかかる。イスモは何をしているのか、もう幾晩…

『花びらとその他の不穏な物語』

花びらとその他の不穏な物語 作者:グアダルーペ・ネッテル 現代書館 Amazon 2021年夏の刊行以来、多くの読者を引きつけてやまない 『赤い魚の夫婦』に続く、現代メキシコを代表する女性作家グアダルーペ・ネッテル(Guadalupe Nettel)の邦訳短編集第2弾!「…

『京都に咲く一輪の薔薇』

京都に咲く一輪の薔薇 作者:ミュリエル バルベリ 早川書房 Amazon 今日マチ子さんの表紙に惹かれて新刊情報に目を留めると、翻訳は永田千奈さんだという。ということは原書はフランス語?とよくよく見れば、世界的なミリオンセラー『優雅なハリネズミ』(L'e…

『製本屋と詩人』

製本屋と詩人 作者:イジー・ヴォルケル 共和国 Amazon 内容も装丁もそそられることの多い出版社「共和国」が、今度はチェコの詩人の本を出した。しかもそれが現代詩人の作品ではなく、没後100年になる20世紀初頭の革命詩人だと知ったとき、そんな物好き…

『ロリータ』

ロリータ 作者:ウラジーミル ナボコフ 新潮社 Amazon ナボコフの作品はこれまで何作か読んだことがあるが『ロリータ』を読むのはこれが初めて。もちろん『ロリータ』がナボコフの代表作の一つであることは知ってはいたが、これまでどうにも食指が動かなかっ…

『わたしが先生の「ロリータ」だったころ』

わたしが先生の「ロリータ」だったころ 作者:アリソン・ウッド,服部理佳 左右社* Amazon この本のことは、発売前から気になってはいたのだけれどまずはナボコフの『ロリータ』を読んでからだろうという気がしていた。ナボコフの作品はいくつか読んだことがあ…

『兎の島』

兎の島 作者:エルビラ・ナバロ 国書刊行会 Amazon 正直、怖い話は苦手だが、箱から出すと紫をバックに金色の兎が浮かび上がるこの美しい装丁の前を素通りすることができなかった。“スパニッシュ・ホラー”の短編集だと聞いていたので短い話なら、怖さもさほど…

『わたしのペンは鳥の翼』

わたしのペンは鳥の翼 作者:アフガニスタンの女性作家たち 小学館 Amazon 子どもたちは皆、それぞれの家族とともに国外にいて、彼女は一人で暮らしている。誰かが負傷したり、殺されたりする事件が起きても、犠牲者の中に家族がいるかもしれないと心配する必…

『波が海のさだめなら』

波が海のさだめなら 作者:キム・ヨンス 駿河台出版社 Amazon 「カミラはカミラだからカミラなんだ」どうして私に「カミラ」という名前をつけたのかと問うと、養父エリックは穏やかに笑ってそういった。その名前をつけたのは、亡くなった養母のアンだったが、…