かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『パチンコ』

 

パチンコ 上

パチンコ 上

 

 

 

パチンコ 下

パチンコ 下

 

 物語は1910年、日本が大韓帝国を併合した年、韓国釜山の南に位置する小さな島・影島の漁村で幕を開け、1989年、大阪の墓地で幕を閉じる。
アメリカで100万部のベストセラーとなり、30の言語で翻訳刊行が決まっているという話題の小説は、韓国と日本を舞台にした4世代にわたる在日コリアン年代記、まさに大河小説だ。


貧しい漁師夫婦には三人の子があったが、無事に成長したのは長男のフニだけだった。
フニには生まれつき口唇裂と内反足の障がいがあった。
息子の行く末を心配した両親は自宅を下宿屋にし、フニに韓国語と日本語を学ばせ、市場で金をごまかされないよう算術を身につけさせた。
フニは体格の良い働き者で優しく思慮深い男に成長し、28歳の時、縁あって年若い妻ヤンジンと結婚した。
まもなくヤンジンは身ごもり男の子を出産したが、その子は生後すぐに病死した。そういうことが3回続いた後、4人目にして初めての女の子ソンジャが生まれる。
両親の愛情を一身に受けて成長したソンジャは、父親のフニが亡くなった後も、評判の良い下宿屋を営み続ける母を助けて惜しみなく働いた。


ソンジャは働くことを厭わないはつらつとした少女だったが、16のときに市場で仲買人のコ・ハンスに目をつけられる。
西洋風のスーツに白い革靴、パナマ帽を頭に乗せたいかにも羽振りの良さそうなコ・ハンスは、ソンジャを誘惑し、ほどなく彼女は恋に落ち妊娠してしまう。
妊娠を告げて初めて相手が既婚者だと知ったソンジャは自分の過ちを恥じ、「結婚はできないが面倒は見る」といったコ・ハンスに別れを告げる。
けれども田舎の漁村で、未婚の女が子どもを産むのは容易なことではなかった。


そんな彼女の窮状を知って手を差し伸べたのは、母娘に恩返しをしたいと考えていた年若い牧師のイサクだった。
兄のヨセプを頼って宣教師として大阪に行くことになっていたイサクは、これも神のおぼしめしだと考え、ソンジャと結婚し生まれてくる子どもの父親となって、ともに日本で暮らそうというのだった。

大阪にあるヨセプとキョンヒ夫婦の家で暮らし始めたソンジャとイサク。
やがてソンジャは男の子を出産し、名付け親となったヨセプはその子をノアと命名する。
数年後、ソンジャはイサクの子、モーザスを出産。
ノアとモーザス兄弟は、イサク夫婦とヨセプ夫婦という4人の親を持ったかのように、慈しみ育てられたが、戦争を前にした日本政府の思想弾圧をうけて、イサクが他の教会関係者と共に逮捕される。

長期にわたり拘束され拷問を受けたイサクは、結核が悪化していよいよ死期が近づいたときようやく釈放されて自宅に戻り、家族に看取られて亡くなってしまうのだった。


それから数年後、まるでイサクの性格を受け継いだかのような生真面目なノアは、大学で英文学を学ぶ夢を叶える。
一方、学校も勉強も苦手なモーザスは、学校を中退して働き始めるのだが……。


愛とはなにか、母性とは、親子とは、家族とは、祖国とは、故郷とは……。
自分はなにもので、どこへ行こうとしているのか……。


家族のあり方を問いながら、それぞれがそれぞれの立場で悩み苦しみつつも必死に生き抜こうとする様は、その行く末が気になって先へ先へとページをめくる手が止められないほどの吸引力。
もしもこれが連続テレビ小説だったならば、毎日テレビの前で手に汗しながら、登場人物たちとともに一喜一憂してしまうに違いない。

だがしかしこれは、いきいきと躍動感ある物語でありつつも、アイデンティティの確立という言葉でかたづけるには、あまりにもつらく厳しい「現実」を描いた移民の物語でもある。
この物語が、多くの人びとの受けた差別の実体験に裏打ちされていることを思うとき、「日本人」である私もまた、一方の当事者の一人として、様々なものを突きつけられずにはいられないのだった。