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『誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ (となりの国のものがたり4)』

 

誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ (となりの国のものがたり4)

誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ (となりの国のものがたり4)

  • 作者:イ・ギホ
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 以前読んだ 原州通信がとても好みだったので、
同じ作者の短編集がでたと聞いて気になって、
ラノベのように長いタイトルなのに、
タイトルを見ただけではどんな話だか想像がつかないなあ)と思いつつも、
Kindleで試し読み部分を読んでみた。

読み始めたら止らなくなって結局そのままぽちってしまった。
だから読んだのはKindle版だ。
けれども読み終えた今、
もう一冊、今度は紙本を買って、
手元に置いておいてもいいかも!というぐらい気に入っている。

巻頭作「チェ・ミジンはどこへ」の語り手は、
うだつの上がらない作家“イ・ギホ”。
あるときフリマサイトを覗いていた彼は、
2年前に出版された自分の本がサイトで売られていることに気づく。

「読めば読むほど情けなくなるトンデモ小説、しかも著者サイン本」
との説明書きがあるだけでなく、
販売価格が他の作家の本より安い。
さらに、他の出品本を5冊同時に購入したならば、
この本は無料進呈するという。

何故、自分の本だけがこんな扱いを受けているのか、
サイン本ということは、
もしやこの出品者、自分の知り合いではなかろうか…
悶々と悩んだあげく作家は、
出品者に直接会ってたしかめようと、
5冊+おまけ本付で直渡購入を申出て……


いやーもう。たまらないなあ。これ。
主人公の情けないぐらいのダメダメぶりがめちゃくちゃ愛おしくなってくる。

この巻頭作だけでなく、他の収録作品もすべて
殺人事件を扱った作品でさえも、
(うわ~!ここで終ってしまうのか!?)という終わり方をするし、
ある一定の視点からの語りに終始するので
できごとの全体像がはっきりとせず、
うっすらと透けて見えたり、
あれやこれやの隙間から見え隠れしたりする別の物語に
想像と妄想をかき立ててられもする。

時折、背筋がぞくっとしたりもするが、
思わずニヤニヤ笑ってしまうところも結構あって
ついついハマってしまう。

7つの作品を堪能したあと、
「あとがき」を読み始めるとまた嬉しい驚きが!

こんなにダメ男を描くのが上手くて
こんなに読みやすく、面白くて、
それでいて底が知れない深みがあって
サービス精神が旺盛な作家に
夢中にならないわけにはいかない。

ああ、これはマズイよ。
どうもかなり惚れこんでしまったようだ。
もっとも私が惚れたのは、
小説の中に登場する情けない人代表みたいな小説家のイ・ギホではなく、
ダメダメ男を描かせると天下一品!の
小説家のイ・ギホ氏の方ではないかと思うのだけれど、
その境目がちょっと曖昧だったりするのよねえ……。