ノーベル文学賞作家アンドリッチの新刊が出る。
収録されているときいて、
昔読んだこの本のことを思い出した。
もっとも思い出したのは
巻頭に収録されていた「エクス・ポント(黒海より)」のことではなく
表題作「サラエボの鐘--1920年の手紙」のことだった。
ボスニアは素晴らしい土地、興趣に富み、
自然も人間も全く尋常ならざる土地です。
ボスニアの地中深く貴重な鉱物が眠っているように、
ボスニア人も疑いなく他の南スラブ地域に住む同胞には滅多に見られぬ
多くの道徳的勝ちを身内に秘めています。
だがしかし、ボスニア人が、少なくとも貴君のような人びとが、
明察しなければならないこと、決して見過ごしてはいけないことがある。
それは、ボスニアは憎悪と恐怖の土地だということです。
あるいはそれは私にとって後付けの印象のようなものかもしれないが、
20年ほど前、初めて目にしたあの一文を、
その後何度も思い出す事になるとは
その時は、思いもしなかった。