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かもめのつぶやきメモ

『食べることと出すこと』

 

食べることと出すこと (シリーズ ケアをひらく)

食べることと出すこと (シリーズ ケアをひらく)

  • 作者:頭木 弘樹
  • 発売日: 2020/08/03
  • メディア: 単行本
 

 “絶望名人”でお馴染みの頭木弘樹さんの本を読んだ。

今回はアンソロジーや名言集ではなく、潰瘍性大腸炎を患った著者自身の体験をもとに書かれている本だと聞いていたから、難病への理解を促すような闘病記なのだろうと思っていた。

読んでみると確かにそういう側面はあったのだが、それに止まらず、「食べること」と「出すこと」というとても個人的なことが、他者や社会とどうつながっているかなど、いろいろと考えさせられる本だった。

病人であるにもかかわらず、周囲から明るくふるまうことを求められる。
お見舞いは見舞われる側ではなく、見舞う側のお気持ちに左右されがち。
食べたら大変なことになるから食べられないのに、周囲からは「少しくらいいいでしょ」「ちょっとだけでも食べてみて」などとしつこく勧められる。
「食べることは受け入れること」だという「文化」があって、「食べないこと」「食べられないこと」が、人間関係に大きな影響を及ぼす。

そうした実体験を踏まえて、食物を制限する宗教の教義は、同じものを食べる人たちをまとめ、他と分断するものなのでは…といった考察も興味深い。

要所要所で紹介される古今東西様々な文学作品からの引用文も読み応えがあり、片っ端からメモを取りたくなってくる文学案内の側面もある。

潰瘍性大腸炎という病が著者にもたらした過酷な体験は、読者にこの病気への理解を促すだけでなく、自分の理解が及ばない事情が相手にあるかもしれないのだと、常に心すべきという簡単なようでとても難しい課題をも突きつける。

装丁から受ける印象どおりのユーモアとある種の軽さを備えながらも、真面目で深い洞察力に満ちた読み応えのある1冊だった。