かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ハッピーライフ』

 

ハッピーライフ

ハッピーライフ

 

 『生きていてもいいかしら日記』などのエッセイや
ツッコミ鋭くユーモア溢れるツイートでお馴染みの
北の大地が生んだ(?)ユニークな文筆家北大路公子さんが手がけた連作短編で、
タイトルが『ハッピーライフ』とくればこれはもう、
ズッコケネタににやりとさせられつつも
思わずほっこりしてしまうような読み心地を連想してしまうのも
無理はないと思わない?

そんな勝手な思い込みを持ったまま本を開いて、思わず目を見張ってしまった。

なんとこれ“人が入れ替わる話”だったのだ。

朝、夫は見知らぬ人になっていた。
なるほどこのキャッチコピーはそういう意味だったのか!

例えばここに女の子がいる。
少女の父親はそれほど入れ替わりの激しい人ではなかったが
それでも半年に一度ぐらいは入れ替わる。
朝、会社に向かったのとは顔も髪型も体形も異なる人が「ただいま」と帰って来るのだ。
そういうものだとわかっていても不安だった少女は、
毎度毎度父親に土産を頼むことにした。
キャンディでも会社のメモ用紙でもなんでもいい。
リクエストどおりの品を鞄から取り出してくれたなら
間違いなくこの人は父だと安心できる……というのである。

もしやこれは
「人はなにをもって他者を認識するのか」
という哲学的な命題なのか!?
と、目を見張ったまま読み進める。

どうやらこの世界では
人は入れ替わるたびに悲しみや憤りや喜びなど
激しい感情を少しずつそぎ落とし、
静かで穏やかな気持ちになっていくものらしい。

爆発前にクールダウンというわけか。

けれどもそんな“穏やかな”人間関係がはぐくむ社会にも
様々な人がいて、様々な感情がある。

忘れることに抗うように日記をつける女性、
17年もの間、週に一度だけ帽子とマスクで顔を覆いつつ買い物に出る人、
夫の浮気相手である図書館司書が入れ替わらないことが気になって日々監視する女等々
穏やかで静かな町に暮らす、穏やかであるはずの人々の
何だか妙に不穏な日常が描かれた連作短編。

心が妙にざわつくが、嫌な後味は残らない。
むしろちょっとクセになって、もっともっとと読みたくなる。

次は更に突っ込んで、分厚い本でもいいかもしれない。
続きを是非にとリクエストしよう!