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『郝景芳短篇集』

 

郝景芳短篇集 (エクス・リブリス)

郝景芳短篇集 (エクス・リブリス)

  • 作者:郝景芳
  • 発売日: 2019/03/21
  • メディア: 単行本
 

 中国の作家郝景芳(ハオ・ジンファン)の邦訳短篇集。
名前を聞いただけではピンとこなかったが、以前読んだケン・リュウ編の中国SFアンソロジー 『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』に収録されていたあの「折りたたみ北京」の著者だと知ったからには手を伸ばさずにはいられない。

収録作は全7篇。
巻頭に収録されている「北京 折りたたみ都市」は、既にケン・リュウ訳の英語版からの重訳で読んでいたわけだが、今回は中国語からの直訳だ。
いうまでもなくストーリーは同じだが、漢字の使い方などでもイメージが少しずつ違ってくるものだから、そのあたりも含め、既読の読者でも読み直して損はないはず。

文字通り都市が「折りたたまれる」というなんとも奇妙な仕組みで、社会階層を見事に描き出すその手腕は、何度読んでも読み応えがある。
以前にも書いたが、やはりこのモチーフの長編はぜひ読んでみたい。

続く「弦の調べ」「繁華を慕って」は、いずれも鋼鉄人という宇宙人に侵略された地球が舞台の物語。
(やっぱり、宇宙人ものは苦手だなあ~)と消化不良気味に「弦の調べ」を読み終えて、引き続き「繁華を慕って」を読んでみると、あら不思議!!
二つの作品は、同じ出来事を別々の主人公の視点で描き出していて、その違いがまた非常に面白い。
ちなみにそれぞれの主人公は別居生活が長くなってはいるが夫婦という設定だ。
「繁華を慕って」を読み終えた後、もう一度「弦の調べ」に戻ってみたら、初読の時とは違った面白さがあった。

他には、死と転生の間の世界を描いた「生死のはざま」、若手研究者のプレッシャーを描いた「山奥の療養院」、ネットと現実の境界目にしみる「孤独な病室」、〆切に追われる苦しみが世界共通であることを思い知らされるショートショート「先延ばし症候群」と、比較的SF色の薄い作品も収録されているので、あるいはSFを期待して手にすると少し物足りなさを感じる読者もいるかもしれないが、作品の幅広さを含め、私にはかえって好ましく思えた。

                

                 (2019年04月22日 本が好き!投稿