かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ベオグラード日誌』

 

 

『そこから青い闇がささやき』に続き、
詩人であり翻訳家でもある山崎佳代子さんの本を手にした。
本書は2001年から2012年までの歳月を日記形式で綴った随筆で、
第66回読売文学賞(随筆・紀行賞)作品でもあるという。

1990年代のユーゴスラビア紛争で、
ボスニア・ヘルツェゴビナコソボから逃れてきたセルビア人たちの
支援活動にたずさわった経験から、難民の話題も多い。

12年の間には様々なことが起きる。
NATOによるイラク空爆スマトラの大地震
9.11、3.11……世界各地を襲う悲劇はいとまが無い。
同時に、彼女の目前にも、
難民キャンプで病院で、道ばたで、深い悲しみと大きな苦しみが次々と押し寄せる。

大切な人たちとの別れ
哀しみにうちひしがれる心
不安や憤り

そういうものから目をそらさずに彼女は詩を書き
そして詩を朗読する
時には日本語で、そしてまた時にはセルビア語で。


あるとき、彼女は詩人の友人に散文を書き始めたことを打ち明ける。
すると相手は
そんなこと私はしないわ、と言った。詩は音楽であり戯曲であり世界だものという。
会話は続く。
わかってる、全体を削っていくのが詩の作業ならば、詩の真実と、小説のそれとは違う。でも書きたいことが詩をはみだしそうなの、と答える。どう終るかわかっている?わかっている。それならいい……。文学にとってモラルとは何であったのか、語り合った。外に出ると、風が冷たかった。


詩からはみ出た言葉はしかし、
やはり詩人によって選び抜かれた言葉であり
読む者の心に余韻を残す言葉でもあった。
       (2017年02月13日 本が好き!投稿)