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『〈戦後文学〉の現在形』

 

〈戦後文学〉の現在形

〈戦後文学〉の現在形

  • 発売日: 2020/10/23
  • メディア: 単行本
 

 戦後文学から現在を考えるというコンセプトのこの本は、戦後文学の60作品の解説と13のコラムからなっていて、3人の編者を含め総勢37名の書き手も、若手からベテランまで豊富な人選、目次だけでも一見、二見の価値がある。

坂口安吾『戦争と一人の女』にはじまって、原民喜『夏の花』大岡昇平林芙美子と並ぶの出だしはまあ、なるほどと思いはするが、円地文子瀬戸内晴美松本清張倉橋由美子……と続き、吉本ばなな宮部みゆき町田康いとうせいこうの『想像ラジオ』……大トリは多和田葉子『地球にちりばめられて』となると、これがあってあれはないの?これも戦後文学?等々おろいろ考え込んでしまいもする。

ちなみに大江健三郎村上春樹の1作品を取り上げた章はなく、別途コラムで評されていている。

どういう基準で作家や作品を選択したのかという点については、編者の一人である内藤千珠子氏によるプロローグで紹介されているのだが、それ自体が取り上げられている作品を読み込む上での問題提起にもなっている。

書評集ではなく、文学の専門家による論文集なのだが、作品毎に、書誌データ、作者紹介、作品紹介が添えられているだけでなく、各項目の末尾には関連情報として、先行研究等の文献も紹介されていて情報量も豊富だ。

読んだことのある作家やその作品について展開されている分析は、(そうそう松本清張推理小説の持つ「社会性」には驚かされたっけ!)(確かによしもとばなな『キッチン』が登場したときにはその文体も大きな話題になったよね!)等々、近代日本文学の変遷として読むと思わずうなずく場面も多い。

個々の作品についての分析には、思わず膝を打つものもあれば、(あああの違和感はそういうことだったんだ)と納得したり、(え?そうだったの?そこまで読み込めなかったけど!?)と驚いたりも。
あれやこれやの未読作品ををなる早で読まなくては!という気にもさせられる。

実をいうとこの本と並行して林芙美子の『浮雲』を読んでみたりもしたのだが、この本を読んでいなかったら、全く違った感想をもったかもしれないという気もしていて、いろんな意味で刺激的な1冊だった。