かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『グレゴワールと老書店主』

 

グレゴワールと老書店主 (海外文学セレクション)
 

 学生の80%が合格するという試験を落として、
バカロレア(高等学校教育修了認証)を取得することができなかったグレゴワールは、
就職も進学もままならず、
母親のコネで老人介護施設で働くことになった。

介護士といっても見習いで、給料は最低賃金を下回り、
厨房や洗濯場など、人手が不足しているところに借り出される雑用係だったが、
これはなかなかきつい仕事だった。

だから元書店主のムッシュー・ピキエが
日に一時間ほど、本を読んでくれないかとお持ちかけて来たとき
学校での悲惨な体験が頭をかすめたものの、
きつい肉体労働を1時間減らせることができるならと乗り気になったのだ。

ムッシュー・ピキエの部屋の床面積は8メートル×8メートル。
さながら洞窟のように4つの壁は上から下まで3000冊の本で埋まっている。
7年前、彼は家も車も書店も、総てを売り払ってこのホームに越してきた。
なによりも辛かったのは多くの蔵書と別れることだったという。
そんなムッシュー・ピキエが、なんとしてもこれだけはと、
無理を通して持ち続けてきた3000冊の本。
それさえも、老人は、
パーキンソン病の進行で手が震え、緑内障で目がよく見えなくなってきているために
読むことも手に取ることも難しくなってきているのだった。

ムッシュー・ピキエに頼まれて、彼の道案内に従って、
おそるおそる朗読をはじめたグレゴワールは、
サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』から始まって様々な本に出会い、
本と本を朗読することに魅せられていく。

やがてグレゴワールの朗読は、
彼自身とムッシュー・ピキエだけでなく
周囲の人々の心にも響き始める。

結果として、老人は青年に
本を読む喜びだけではなく、
人と人が心を通わせることの素晴らしさをも伝えるのだ。

「本に魅せられた人々の物語」としては正統派といえるだろう。

病気を抱えた老人であったり
学業についていけなかったり
性的マイノリティであったり
移民であったりと
様々な社会的弱者が登場し、
そうしたもろもろが否定されることなく、
あたたかく包み込まれていくという点においても
読み心地の良い物語だった。