かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『詩人になりたいわたしX』

 

 ミラ、ムチャチャ(いい?お嬢さん)
マミがそう口にするときは
自分がなにかやらかしたことがすぐわかる。

いつものようにシオマラは口答えせずに黙り込む。

オイステ?(聞いてる?)とマミはたずねるけれど、
彼女の答えを待たずに席を立つ。

ときどきシオマラは思うのだ。
このうちで何をいっても聞いてもらえないのは、
ただひとり、自分だけだと。

15歳のシオマラはドミニカ出身のパピとマミと、
双子の兄とともにニューヨークのハーレムに暮らしている。
敬虔なキリスト教徒であるマミは、
とりわけシオマラのしつけに厳しく
歳頃の娘のあれこれに事細かに干渉してくる。
かつて女たらしで近所でも有名だったというパピは、
家庭のことにはあまり関心がないよう。
シオマラがツインと呼ぶ双子の兄は、
ばんばん飛び級をするほどに成績優秀で品行方正、
両親の自慢の息子ではあるが、
小さい頃から華奢な子で、
シオマラは自分のこぶしで守ってあげねばと思ってきた。
そう今までは。

発育が良く、周囲より一足先に女性の身体へと成長した彼女は
男の子たちの好奇の目にさらされ、
女の子たちからは目の敵にされ、
トラブルを避けるために、極力口数を減らすようになっていた。
そんな彼女が唯一、心の内をはき出すことができる場所は、
双子の兄からもらった1冊のノート。

シオマラはその思いの丈を詩にして綴っていたのだった。

母との確執、
はじめての恋、
兄の秘密、
ポエトリー部と仲間達との出会い
自分を表現することとは…

全篇詩で綴られた物語。

読んでいるうちに
胸のあたりがかあっと熱くなってきて、
だんだん視界がにじんでくる。
この本のこと、この本に書かれた詩のことを、
いますぐ誰かと話したいような、
高揚した心持ちでありながら、
この気持ちの高ぶりをどう伝えたらいいのかわからずとまどいもする。
たぶん、書くのがいいのだろう。
私もノートを取り出して。
詩人に憧れた10代の頃の気持ちを思い出しながら。