かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『フラッシュ: ある犬の伝記 』(ルリユール叢書)

 

 コッカー・スパニエルのフラッシュからみた詩人エリザベス・バレットの半生であると同時に、フラッシュ自身の伝記でもあるユニークで可愛くてどこか切ない物語。

犬のフラッシュ自身も様々な経験を積んで視野を広げていくところも興味深い。

なるほどこれは、フラッシュのことを描いているようにみせてエリザベスの、エリザベスのことを描いているようでフラッシュのことを描いていたりするんだな。きっと。

そんなことを考えながら昨年発売直後に読んだのは白水社Uブックスの『フラッシュ』


そのUブックスの出淵訳と読み比べするつもりで手に取ったのだが、この本の魅力は、本篇だけでなく、附録として収録されているウルフの「忠実なる友について」と、エリザベス・バレットの詩「わが忠犬、フラッシュに寄す」、さらにはウルフとバレットそれぞれの年譜に、巻末の「訳者解題」、これらすべて、あますところなく味わえるところにあった。

とりわけ「訳者解題」のバレットとその作品に関する解説は、『フラッシュ』のことを理解する上でも、非常に参考になった。

犬のフラッシュの視点で描いた伝記は、フラッシュの目に映ったもの、フラッシュが嗅ぐことのできた匂いによって構成することによって、当時、 エリザベス・バレットにまつわって飛び交っていた様々な「噂」には触れることなく、パレットの半生を描き出す。

ウルフのそういうところがまたいいんだよなあ。

それにしても彼の美徳を忘れはしない---そもそも犬には、欠点などあまりないのだがって!
ウルフったら、めちゃくちゃ犬好きなんじゃないの!?

 

 

フラッシュ:或る伝記 (白水Uブックス)