かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『レースの村』

 

レースの村

レースの村

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 ひょんなことから、大学の友人サクマの帰省につきあうことになったぼく。
特別仲が良いわけでもなく、学部が同じだけの大勢いる友人の一人でしかなかったサクマの実家は、田舎だとは聞いていたが公共交通機関網からも切り離された文字通りの“限界集落”だった。
一泊ぐらいのつもりで気楽についてきたのに、思いの外長い期間、いすわることになったのは、帰路を考えて腰をあげるのがおっくうだったからだけではなく、村人たちが輪番で世話を焼く“幽霊”に興味を持ったからだった。

巻頭作「幽霊番」は書き下ろし作品で、存在の確かさ、あるいは不確かさを問いかける意欲作。
ラストについては、ぜひぜひ、「あれってさあ!」と、読み終えた方と語り合いたい。


つづく表題作「レースの村」は、女性だけが暮らす「村」を舞台にした作品。
大人たちは様々な理由から、男性のいないコミュニティにやすらぎを見出すが、そこで育つ子どもたちは……。
書肆侃侃房が2020年4月に創刊した文芸誌『ことばと』の記念すべき創刊号に掲載された作品というだけあって、こちらもなかなかの読み応え。


結婚して15年。夫との仲は悪くはないが、なぜだかいつも妙にかみ合わない。そう思っているのは自分だけ?
三作目の「空まわりの観覧車」も、書き下ろし作品。
その倍ほどの結婚生活を送ってきた私としてはこれ、かなり胸が痛い。


ラストを飾るのは「透明になった犬の話」
家出していた飼い犬が帰ってきたはいいけれど、透明になっていて、その姿は姉妹にしか見えないという不条理ものか?そうなのか?と思って追いかけるうちに……!?
(これは前出の3作とはだいぶ雰囲気が違うような…?)と思ったら、第28回大阪女性文芸賞(2010年度)佳作受賞作なのだそう。
そう言われれば、腑に落ちる気も。
読ませる話ではあるけれど、前出の作品のその先に作者がめざすものとは、ちょっと違うような気がしたのだった。


学生たちの希薄な関係と、田舎の村の人たちの奇妙な連帯感。
女たちが女であるが故に直面する様々な問題。
夫婦の微妙なすれ違い。
ありがちな、ありふれた世界を描いているようでいて、故意に軸をずらして、物事を斜め横からも眺めてみたらと薦めるような、ちょっと変わった読み心地。

作者が見据えるこの先に、どんな世界が広がっていくのかも気になるところ。

今後の作品が楽しみな作家に出会った。