かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『仕事の喜びと哀しみ』

 

表題作「仕事の喜びと哀しみ」がチャンビ新人小説賞を受賞し、韓国KBSでドラマ化もされた、とりわけ若い読者にお勧めの短篇集だと聞いていたので、刊行後すぐに手を伸ばすことはしなかったのだが、電子書籍化されたのを知って、Kindleサンプルを試し読みしてみることに。

結果、巻頭作「幸せになります」につかまった。

結婚式の招待状をめぐる話だ。
ちょっとネタバレにはなるが、どんな話なのか紹介させて欲しい。

まず前提としてある、招待状を渡すために一席設けて食事をおごり、相応の祝儀をいただくという、韓国の結婚式における“常識”は興味深い。

でもまあ「私の時は○万円のお祝いを貰ったから、彼女の時も同じぐらい包まなければ」といった感覚は、私にもあるから、これはこれでわかる気がする。

だがそれ以上に印象的なのは、社内結婚をする“私”と、同期入社の彼の年収の差が1,030万ウォンもあるということを知って、“私”が愕然とする場面だ。

努力に努力を重ねて「仕事ができる」と評判を得、ようやく希望部署に配属された、そんな“私”であるにもかかわらず、だ。

ご祝儀の“差額”に腹をたてて、不公平の是正を試みる“私”であるのに、あまりにも大きい賃金格差を前に、怒るよりもただただ衝撃を受けて立ちすくむ。

いやもうこれは、心の中で、共感ボタンの連打するしかなかった。



言いたいことは山ほどあるが、こんな調子で総ての作品について紹介するわけにもいかないので、もう1作だけ「俺の福岡ガイド」の話をしよう。
主人公は自称イケメンのモテ男。
数年前、同じ職場になかなかいい雰囲気になった女性がいた。
確かに手応えがあったはずなのに、その女性は他の男と結婚して職場を去ってしまった。
ところがほどなくして夫が亡くなり、いまは一人、日本で暮らしているという。
こういうことはタイミングが大事とばかりとあれこれ考え、そろそろいいかとメールを送り、連休を使って湯布院まで会いに行く。
なかなかマメな男なのだ。
イケメンなのにおごり高ぶらず、気遣いできてマメな男、自己評価が高い彼の恋の行方は……。

ふっ。
そうだよねえ。
キミのそのナルシストぶり、信用できないと思っていたわ。



【収録作品】
幸せになります
仕事の喜びと哀しみ
俺の福岡ガイド
やや低い
助けの手
101回目の履歴書と初めての出勤
真夜中の訪問者たち
タンペレ空港