かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『キリンが小説を読んだら』

 

 大きな声では言えないが、私は本当に現代日本文学にうとい。

いろいろ面倒なことが起きかねないので
「趣味は読書」などとは、極力言わないようにしているのだが、
そういう情報はどこからともなく漏れてしまうもので、
「あの本読んだ?」「今どんな本を読んでいるの?」
などと訊かれることがたびたびある。

そうしてそういうことを訊ねられると本当に、返答に困ってしまうのだ。
今話題のあの本も、ベストセラー作家のあの本も
読んだこともなく、読む予定もない。
今読んでいるロシア出身のフランスの小説家の本の話を持ち出しても
おそらく怪訝な顔をされるだけだろう。

それでも、こうして書評サイトに参加するようになって
以前よりは随分“マシ”になった。

あの作家はどんな作風で、話題のあの本はどんなあらすじなのか、
投稿されているレビューを読んで大ざっぱなイメージをつかむことが出来るし
時には大胆に「すっかり読んだ気に」なってしまうこともある。

そんな私が、
読売新聞の朝刊に2019年4月から1年半にわたり連載された
「現代×文芸 名著60」に、
読売新聞の読書面「本よみうり堂」のスタッフでもあるおじキリン氏のコラムや
作家や詩人、翻訳家や書評家など書評の執筆陣の対談や鼎談などをプラスして
収録したこの本を手にした理由には、
何を読んだらいいのかという指南を求める他に、
あわよくば「読んだ気」に、という下心がなかったとはいわない。

ところがこの本、実際に読んでみると
単なる書誌情報とは全く別の面白さが際立っていた。

たとえば辛島デイヴィッドは、『おまじない』(西加奈子著)や
アイネクライネナハトムジーク』(伊坂幸太郎著)などを紹介しているのだが、
(へえ、この人はこう読み解くのか!私だったらどう読むかしら?)と
いう好奇心を持たせるのがうまい。


谷崎由依が評するのは『かけら』(青山七恵著)や
対岸の彼女』(角田光代著)などで、
紹介されている本への興味もさることながら、
青山七恵さんの書く小説の語り手はいつもとても目がいいと思う
といった独特の視点があって、ついつい紹介本よりも評者への興味がわいてしまう。

紹介されている60作品のうち、
私が読んだことがあるのは3作品のみだったが、
既読本の書評を読むというのもまた面白い。
となると、今度は自分が読んだ後、またこの本に戻ってくるのもいいかもしれない。

久しぶりに大江健三郎が読みたくなったし、
何度か挫折している多和田葉子も今度こそ読める気が。
長嶋有の描く親子関係にも興味が沸いてきた。

あーあ。
結局またまた読みたい本のリストをぐーんと伸ばしてしまったではないか!