かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ヤーガの走る家』

 

 わたしの家には、鳥の足がはえている。
 家は、年に二、三度、夜中にすっくと立ち上がり、猛スピードで走り出す。百キロ走るときもあれば、千キロのときもある。そして似たような場所にばかり、すわりこむ。暗い森の奥だったり、冷たい風がふく荒れ地だったり。町のはしにある工場跡に隠れていたときもある。



こんな書き出しで始まるものがたりの主人公はマリンカ。
祖母のバーバとカラスのジャックと一緒に鳥の足を持った「ヤーガの家」で暮らしている。

この家には、あの世とこの世の境界を守る秘密の「門」があって、バーバはその門の番人なのだ。

毎夜、訪ねてくる死者たちを、美味しい料理と楽しい音楽でもてなしては、門の向こうの世界へ送り出すのがバーバの仕事で、マリンカもそれを手伝っている。
いずれバーバのあとを継ぐべく、修行中の身なのだ。

でも本当のことをいえばマリンカはずっと、一夜限りのもてなし相手の死者ではなく、生きている人たちと友だちになって、思いっきり遊んでみたかった。

だから、バーバのいいつけに背いて、あんなことをしてしまったのだ。



スラヴ民話に登場する魔女「バーバ・ヤーガ」をモチーフに、家族の愛情や友だちとの絆、進むべき道を自ら選び自分の足で歩いて行くことの意味を織り交ぜながら、少女の葛藤と成長を描いたファンタジー

マリンカをとりまく、ユニークで魅力的な面々も楽しい。
とりわけ私のお気に入りは、愛情たっぷりで忍耐強く、拗ねたところもかわいい、もう一人(?)の主役ともいえるマリンカが暮らす「ヤーガの家」!


一つだけ残念なことをあげるとすれば、バーバ・ヤーガ伝説と異国情緒をひきだすためか、ふんだんにロシア料理やロシアの飲み物クワスが登場し、読み手の胃袋を刺激してくれるのだが、これらの料理が「変わったたべもの」扱いで、今ひとつ美味しそうに読めなかったこと。
ロシア料理を知らない読者にも、あれはどんな味なんだろう!是非とも食べてみたいものだ!と、思わせるようなシーンがもう少しあれば、もっとよかったんだけどなあ。

それはさておき、この本のバックミュージックはもちろん、ムソルグスキーの『展覧会の絵』9. 鶏の足の上に建つバーバ・ヤーガの小屋をお薦めします!