かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『立ちどまらない少女たち: 〈少女マンガ〉的想像力のゆくえ』

 

“<少女漫画>的想像力のゆくえ”という副題と
帯にある「少女文化」と「外国文学」の文字に惹かれて手をのばした本は
アメリカ女性文学を専門とする慶應義塾大学文学部教授の論文集だった。

パラパラとめくってみると、
200ページ余りの本文の後に丁寧な註が10ページにわたって添えられており
さらに参考文献の掲載は20ページにもわたる。
(いやいや大丈夫か私!?読み切れるだろうか?)と不安になるが、
この参考文献をよく見ると英語の文献に混じって
いがらしゆみこ/原作水木杏子キャンディ・キャンディ』全9巻とか
岩館真理子『ふたりの童話』全3巻、
成田美名子エイリアン通り(ストリート)』など
子どもの頃夢中になって読んだ懐かしの少女漫画が幾つもあって、
さらには『若草物語』『大草原の小さな家『小公子』
吉本ばなな『キッチン』もある!
おまけに本篇にはあの漫画この漫画の懐かしい図版も!
うん。これならなんとかなるだろう。

実のところ小中時代は『はなとゆめ』→『LaLa』派だったから、
『なかよし』を購読してはいなかったが、
キャンディ・キャンディ』は友だちから借りて全巻読んでアニメも観ている。
なんなら、よくお風呂の中で、
「きみは泣いている顔より笑った顔のほうがかわいいよ」と、
呪文のように唱えていた話を打ち明けたって良い。

そう腹をくくって読み始めると、本題にはいる前段で
あの田山花袋『蒲団』の芳子のモデルとなった女性が
翻訳家として名を残していたことを知り、なんだかとっても嬉しくなって、
テンションもあがり、次第に前のめりになっていく。

そうそう、もちろんだ!
この本でも取り上げられている
あの『キャンディ・キャンディ』と『あしながおじさん』の類似点については
同時期にそれぞれの作品を読んだせいもあるだろう、
10代の頃の私も気がついていた。
でもそうか『赤毛のアン』や『若草物語』との関連までは考えがいたらなかった。

吉田秋生は仲のよかった友だちが夢中になっていたから
『カリフォルニア物語』は読んだけれど、
子供だった私にはシリアスすぎる設定がちょっと苦手だった。
でももちろん、あれも舞台はアメリカで
言われてみれば『嵐が丘』や『ライ麦畑でつかまえて』エデンの東』『小公女』と、
いろいろなエッセンスがちりばめられていたんだなあ。

エイリアン通り』の舞台であるロスにあこがれはしなかったが、
漫画に描かれた「なんでもあり」で「ここではないどこか」は
いつだって魅力的だった。

萩尾望都竹宮惠子はもちろん、池田理代子山本鈴美香あたりの影響で、
私の場合はとりわけそれが、
アメリカよりもヨーロッパ諸国へ向かってしまったから
アメリカ文学よりも他の地域の文学に関心が行ってしまったという自覚があるのだが、
それでもやっぱりこうして体系づけられたものを読んでみると
ローラ・インガルス・ワイルダーから受け取ったあれこれをはじめ
確かに自分の中に脈々と流れているものがある気がして興味深い。

そしてまた、吉本ばななをはじめ、
海外文学に影響を受けた少女漫画を読んで育った作家たちの
書いた小説を読んできたという点でも。

なつかしい物語を思い出し、
意外な指摘に興味を覚え、
ああまたまたどっさり、読みたい本のリストをのばしてしまった。

どうやら幾つになっても立ちどまれそうにない。

 

 

*この本、書評サイト本が好き!を通じて、版元の松柏社から発売前にご恵贈いただき、一足お先に楽しませていただきました。ありがとうございました!