新刊情報を知ったとき、あのショパンの生涯を、あのリストが書き残す!そんな本があるの!?と、一瞬、耳も目も疑った。
だがしかし私が知らなかっただけで、どうやらこれ、世界的にもかなり有名な著作らしい。
その昔、日本にも紹介されたことがあるそうで、今回はなんと72年ぶりの新訳なのだとか。
同じロマン派の音楽家であることからして、リストとショパンになんらかの交流があったことは想像に難くないし、恋愛関係の絡みでなにかトラブルがあったような話を聞いたことがある気もしたが、(そもそもこの二人、性格的に合いそうにないな)と、取りたてて根拠もなく漠然と感じていたので、そのリストがどんな風にショパンを論じるのか興味しんしんで読んで見た。
読んで見たら、これ、すこぶる面白かった。
訳者解説によれば、1849年にショパンが世を去ると、リストは直ちに伝記執筆の構想を練りはじめ、翌年にはもう雑誌に全17回にわたる連載記事として発表し、さらにその翌年には書籍化したのだという。
どうやらリスト、音楽や恋愛だけでなく、ペンを持たせてもマメだったらしい。
この本の面白さは、リスト本人の思い出や見解だけでなく、友人たちの回想などもふんだんに盛り込んでいるところにもあって、ジョルジュ・サンド、バルザック、ドラクロワ、ベッリーニ、ベルリオーズ、ハイネなど、同時代を生きた芸術家たちが顔を出す場面は見逃せない。
同時にショパンを題材に語りあげられるリスト自身の芸術観も読みどころだ。
たとえばポロネーズ。
8章立ての本篇のうち丸々1章分がポロネーズに当てられている。
ショパンのポロネーズと言えば、私はまず第一に「英雄」を思い浮かべ、次いで「幻想」や「軍隊」もあったっけ…と考えながら、ページをめくると、リストの推しは「嬰ヘ短調大ポロネーズ」!
その理由を語る口調は熱を帯び、言われてみればなるほどと、思わず納得させられてしまう。
次いでマズルカでは……。
ショパンはすごいよ!大好きだよ!と語りあげるリストの胸の内には、もちろんショパンの才能への称賛があるが、同時に故郷やきょうだいとの強い結びつきといった、ショパンが持っていて自分が持っていないものへの憧れもあるようにも思われて、胸が痛くなる場面も……。
という具合に、とにもかくにも全篇にわたって文章が熱いのだ!
ものすごい熱量で、リストって本当に情熱家だったんだなあ!と思わせる。
そしてこの熱さはどうやら伝染するらしい。
おそらく訳者も相当熱くなったに違いない。
そしてもちろん、読者もその熱気に当てられて……。
久々にロマン派音楽を聴きまくっている。