かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ムーミン全集[新版]6 ムーミン谷の仲間たち (ムーミン全集 新版 6)』

 

1964年に山室静さんの翻訳による日本語版『ムーミン谷の冬』が
講談社から出版されて以来ずっと
多くの読者を魅了してきたムーミン一家の物語。

私も長らくこの山室訳を愛読してきて
今も本棚には講談社文庫版のシリーズ8冊が並んでいます。

しばらく前から講談社が【新版】のムーミン全集を出しているのは知っていたのですが
訳者は以前と同じ山室さんだし、
文字を大きくしたり、古い表記を改めたりする程度の改訂版だろうと思って
手を伸ばさずにいました。

ところが、はじめての海外文学vol.6 にこの本が登場し、
推薦者のフィンランド語翻訳家古市真由美さんのお話を伺うにつれ、
ムーミン好きを自認する読者としては、
このシリーズ、チェックしないわけにはいかないのでは?
という気になったのでした。

旧版と収録作品は同じで
スナフキンと小さなはい虫の話に始まって、
想像力が豊かすぎていつもほらを吹いてしまうホムサ、
いつもながらの心配性でこの世のおわりにおびえるフィリフヨンカ
皮肉を言われすぎて笑うことも口をきくことも出来なくなり
ついには透明になってしまったニンニ、
いつもなにかをもとめて集団で彷徨い続けているニョロニョロ、
自由をこよなく愛するムーミンパパや、泣き虫のスニフなど、
個性的な面々が繰り広げる物語が全部で9作収録されています。


旧版と新版を2冊並べて交互に1篇ずつ読み始めると
物語のはじまりが「3月」から「4月」に
スナフキンが背負っているのが「ランドセル」から「リュックサック」に
歌を作るのにもってこいなのは「夕方」から「晩」に
といった具合に修正されていて、
それとともにほんの少しずつ読みながら思い浮かべるイメージが
変わっていくことに気づきます。

修正はそうした細かい点だけではありません。
たとえば、ある作品の中でムーミンパパが突如悟る場面を見てみましょう。
旧版では

そうしてパパは、とつぜんにさとったのでした---家にいても、ほんとうのパパがそうあるべきほどには、自分はじゅうぶん自由で冒険ずきでいられるのだ、と。

とある部分が、
新版では

そしてパパは、とつぜんさとったのです---家族のいるベランダにいてこそ、自分はほんとうにパパらしく、自由で冒険心に満ちあふれていられるのだ、と。

となっていました。
ニュアンス、だいぶ違いますね。

そして、なんといってもこの改訂でもっとも素晴らしいと私が思ったのは
「目に見えない子」ニンニの物語です。
冒頭こそ慣れ親しんできた“おしゃまさん”が
“トゥーティッキ”という名前であることに多少とまどいをおぼえますが、
旧版よりも格段に読みやすく躓きなく読むことができ、
改めてこの作品の素晴らしさを実感することができました。
そうそう、ずっと疑問だったんです。
どうして挿絵ではムーミンパパの耳が片方だけ黒くなっているんだろうって!

この【新版】の翻訳編集を担当されたのは畑中麻紀さん。
奥付に記載はありますが、表紙にはお名前はありません。
それがとても残念に思えるようなすばらしいお仕事。

お子さんのため、お孫さんのため、あるいはご自身のために
これから購入を検討される方にはぜひにと、
このムーミン全集【新版】をお薦めします。
私ももう少し、読み比べてみるつもりです。