かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『複製された男』

 

ジョゼ・サラマーゴの新刊が出たと聞いては、放ってはおけない。
以前 『あらゆる名前』になかなか手こずったにもかかわらず、性懲りもなくまた手に取ってみた。
相変わらず、ほとんど段落というものがなく、どのページにもびっしりと文字が並んでいる。
とはいえ、原文はさらに、ピリオドも改行もなく会話に「 」もついていないらしいので、これでも翻訳にあたって訳者は結構気を遣って、読みやすく仕上げているのだろう。


独特な文体だけでなく、同じことが少しずつ形を変えて何度も繰り返し書かれていたりと、文章はくどく、時にしつこくすら感じられるのだが、読み慣れてくるとそうした回りくどい言い回しに独特のリズムを感じるようになり、ほとんど改行のない長文なのに声に出したら節がつけられるのでは…とさえ思えてくる。いや実際に、読み上げてみたわけではないのだけれど…(だって本当に長文で息継ぎすら難しそうなのだ)。


肝心の物語はといえば……
中学校の歴史教師である主人公の男性が、離婚後の一人暮らしで鬱気味になっている様子を心配した同僚のすすめで、一本の映画を観たところ、その映画に脇役として出演していた俳優が、自分にそっくりなことに気づいて、スクリーンの中のその男のことが、気になってしかたなくなる。
その俳優の名前を特定するために、何本ものビデオ映画を観、その人物がますます自分とそっくりであることを確信した主人公は、俳優の探索をはじめるのだが……。


彼がオリジナルで、自分が複製された男なのか?それとも?!
ミステリー仕立ての展開の中で、「孤独な現代人の苦悩とアイデンティティの危機を描く」作品というふれこみだ。


主人公には終始イライラさせられるし、ハラハラはするものの展開は予測不能というほどではない。
けれどもこの独特の節回しのような文体が、読み進めるうちになんだか体中にまとわりついてくるようで、数日間、サラマーゴの世界にどっぷりつかってしまった。
この癖になるアクの強さ、興味のある方はぜひ一度お試しを?!というところだろうか。

               (2012年12月25日 本が好き!投稿