かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『見知らぬ島への扉』

 

見知らぬ島への扉

見知らぬ島への扉

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 男が城の扉をたたきながら叫んでいます。
船を一艘ください。
 王様の住む城にはほかにもたくさん扉がありますが、この扉は願いの扉でした。



こんな書き出しで始まるのは、ポルトガルの作家ジョゼ・サラマーゴの書いた寓話的な物語。
字が大きく行間が広く開けられている絵本のような装丁の短い物語です。

ある男が王様に「“知らない島を探しにいきたい”ので船をください」と願い出るのです。

王様は男の話を「馬鹿げている」と思います。
だって島なら「全部地図に載っている」ではありませんか。

でも男はいうのです。
「知っている島だけが地図に載っているのです」と。

男はなぜ、知らない島にこだわるのでしょうか。

難しい言い回しはありません。
とても短いお話です。
ですがちょっと不思議なお話なのです。
読んでいるとまるで文字と文字、言葉と言葉、行と行、ページとページの間になにかが隠れているような気がして、思わず目をこらしてしまいます。
ところどころ声に出して読んでみたくなります。
そして読み返すたびに、本当に「なにか」が見つかるのです。

この物語も他の作品と同様に、ポルトガル語の原書もサラマーゴ本人がチェックしたという英語訳も、サラマーゴ特有のほとんど句点がなく読点だけで繋がる文体で書かれているようなのですが、この日本語版は、読みやすさに配慮して会話ごとに改行するなど“工夫”がされています。
確かに読みやすくなっていると思うのですが、あのまとわりつく様な文体に惹かれるサラマーゴファンとしては、その点が少し残念な気もします。

             (2016年01月04日 本が好き!投稿