かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『 ちっちゃな回想録』

 

ポルトガルの作家ジョゼ・サラマーゴの回想録。

祖母との思い出、両親のこと、幼くして亡くなった兄のこと
近所に住んでいた人々とのあれこれ、
学校でのエピソード、女の子たちへの淡い想い、
サラマーゴ(西洋わさび)なんていう名がついたわけ。
スペインの内戦やナチス台頭の噂、
サラザールに関するあれこれなど時代背景も見えかくれはするが、
少年時代のあれこれを思い入れと茶目っ気をたっぷりこめて
思いつくはしから語って聞かせてくれているかのような調子で
あれこれと書き連ねる文体のトーンは明るく
読んでいるうちに
自分の祖父の昔語りに耳を傾けている様な気持ちになって
心も身体もほかほかと温まり心地よい気分になっていく。

うんと、うんと厳密に言えば、いわゆる記憶ちがいというものは存在しないのではないかと思うのだ、記憶ちがいと、確実で絶対だと思っている記憶の差というのは、単に信用の度合いの問題に過ぎず、その時々、その場その場の、どうしようもなくあいまいな部分を信用するかどうか、それを称して確実と言っているだけなのだ。



そんな風に書き連ねるサラマーゴの思い出は、
あるいは事実そのままではないのかも知れないが、
それでもやはり、
何の関係もないはずの読み手の幼い日の思い出にと確かに繋がっていく
どこか懐かしい回想に違いなかった。

              (2016年07月15日 本が好き!投稿