かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ビアトリクス・ポターの物語 -キノコの研究からピーターラビットの世界へ-』

 

ビアトリクス・ポターといえば、ピーター・ラビット。
湖水地方の自然を愛し、農場を経営する一方で、自然保護に努め
ナショナル・トラスト運動に所有地を遺贈したということは知っていたが、
その原点が、
子どもの頃、毎年家族とともに夏を過ごしたスコットランド高地で
自然のなかを歩き回り、気にいったものを集めては、
スケッチに熱中した少女時代にあったとは。

この本は“のちに世界中で愛される絵本作家となったビアトリクスが、
自然と芸術の両方に情熱をそそぎ、自分の道を見出すまでを描いた伝記絵本”だ。

ビアトリクス・ポターの生涯(1866年〜1943年)のうち
1866年〜1897年頃のことが詳しく描かれている。

たくさんのペットを飼い、動物たちを観察しスケッチに残す。
「よく見て、考えて、本物どおりにスケッチしたい」と願う少女は
顕微鏡で観察したり、時には死んだ動物を解剖して骨格を観察することも。

長じるにつれ、キノコに魅せられ、
スケッチだけにとどまらず、
研究を重ねて胞子の培養に成功し論文を書き、学会に提出する。

けれども……
1800年代の多くの女性と同様に、
ビアトリクスは弟のバートラムのように学校に行かせてはもらえず
家庭教師について勉強するしかなかったし、
論文は中味以前の問題で門前払いになってしまうのだ。

ちなみに博物学者が集まるリンネ協会が、
ビアトリクスをはじめ、多くの女性研究者を
不当に扱ってきたことを公式に謝罪するのは
それから約100年後(1997年)だ。

ビアトリクスの日記は1897年、
彼女が論文を提出した後で終ってしまっているそうで
彼女がどうしてキノコの研究をやめてしまったのかはあきらかではない。
けれども彼女がキノコについて学んできたことはけっしてむだではなく
その後の彼女の人生にも大いに役立ったのだと絵本は結ぶ。

ピーター・ラビットの物語にも
その観察眼がいかされているのだと。


本編はここで終るが、巻末には、
年譜とともにビアトリクスのその後の人生についても簡単な説明が付け加えられている。

いきいきと描かれる好奇心旺盛な少女時代に感嘆しつつも、
愛らしいピーターラビットを描いたというだけでなく、
女に生まれたが故に、学ぶことにも、仕事を持つことにも
多くの制約が設けられ、どれだけ努力しても認められなかった時代に、
いろいろなことをあきらめながらも、できることをみつけ、
牧羊業を営み、自然保護の活動をおこなったビアトリクス・ポターという作家の
生き方そのものにも興味がわいてくる1冊だった。