かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『野生のアイリス』

 

2020年にノーベル文学賞を受賞したアメリカの詩人、ルイーズ・グリュック(Louise Glueck)氏の詩集。
原書『The Wild Iris』は1993年にピュリッツァー賞詩部門も受賞している。

左側のページには詩人でエッセイスト、ウィートン大学英文学部准教授の野中美峰氏の翻訳が、右側のページには英語の原詩が掲載されている対訳形式。

どちらから読むかは、読者のお好み次第だろうが、私は順番通りにまず翻訳から、続いて英語の詩を黙読し、そのあと、声を出して読んでみた。

正確に意味が読み取れるかどうかは別として、原詩は飾り気のない比較的平易な英語で書かれているので、音節を含めてイメージを膨らますことができるところがいい。

訳詩の方も声を出して読んでも心地よい、リズムのある美しい調べで歌い上げられている。

訳者のあとがきによれば、『野生のアイリス』は、ルイーズ・グリュックにとって6冊目の詩集にあたるのだそうだが、2年間1篇の詩も書けなかった詩人が暗闇を抜け、たった2か月で書き上げたのだという。

書けなかった期間、グリュックは、巻頭詩の冒頭の一節「苦しみの果てに/扉があった」「At the end of my suffering /there was a door. 」だけを頭の中で何度も繰り返していたのだとか。

ああでもきっと、扉が見えていたのなら、どこかに出口があることはわかっていたのかも…などと思う。

オドリコソウやエンレイソウスノードロップヒナギクなど、身近な草花を愛で、朝な夕なに祈り、風や光を肌で感じて詩人はうたう。

その声は、穏やかで、密やかな響きであるにも関わらず、どこか凜とした佇まいで、一見可憐ではかなげに見えて、風雨にさらされてもしっかりと根をはって生きる草花のような、見かけによらないたくましさがある気がした。