かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『ポルトガル、西の果てまで』

 

フランス人は隣を見てスペイン人を田舎者だと見下して、
スペイン人は隣を見てポルトガル人を馬鹿にする
ポルトガル人は隣を見るが、目に映るのは海ばかり
仕方がなく、彼らは海に向かって愁いを帯びたファドを歌う。


スペインを旅した時に教えられた小咄は明らかに
ポルトガル経由でやってきた私に対して、
「やっぱりスペインの方がいいでしょう」という同意を求める意図が込められていた。

けれどもそのとき、私は既にポルトガルにすっかり惚れ込んでいたので、
その小咄を聞いても、(やっぱりポルトガル人の方が人がいいわ)と思うだけだった。

十数年前の旅の記憶が鮮やかに蘇ってきたのは、この本を読んだからだ。


ポルトガルに通うようになって18年、
13回の旅をして、滞在日数は220日を超えるという著者が、
最初に通ったのはスペインで、
何度も訪れてスペインを旅し、スペイン語もマスターしたという。
そんな著者が国境をこえて、
お隣の国ポルトガルにはなかなか足をのばせなかったのはなぜか。
何年も後になって、
一人ポルトガルを訪れてすっかりはまってしまうまでのプロローグが
まずおもしろい。

それからポルトガルに通い詰め、
路地裏にある地元の人にしか知られていないような店で
地元料理に舌鼓をうち、
ポルトガル各地を訪ね歩き、
名物料理を食べ、新鮮な食材で自ら腕を振るう。

ただの旅好きでも、ただの食いしんぼうでもない。
言葉をマスターし、料理を研究し、
日本に帰ってからも彼の地で食べたあの味の再現に余念が無い。

私は海外旅行が大好きで、あちこち出かけてみたこともある。
中でもポルトガルが気に入っていて、
もしも移住するならポルトガル!と公言するぐらいなのだが、
本当に好きというのは、こういう人のことをいうのだと、
著者の情熱にあてられて、なんだか自分が恥ずかしくなる。

また私はタブッキが好きで、
何度も何度も 『レクイエム』を読み返してきたつもりだったが、
あの作品にでてくるあの料理、
登場する人物の出身地、
彼が訪れたのはこの場所で……等という風に、
『レクイエム』をガイドブックがわりにして
出かけるという発想はこれまで全くなかったので、
目から鱗が落ちる気もした。

こんな風に気になること、好きなことに
情熱を傾けることが出来ることが自体がすごすぎる。

映画にはとんと疎い私だが、
後半の映画にまつわるあれこれも
著者の熱量にあてられながら楽しく読み、
この本は、ポルトガル好き、タブッキ好きの人だけでなく
映画好きな、あの人、この人にもお勧めできそうなどと思う。

読み終えてみれば、だがやはり、
無性に旅に出たくてたまらなくなった。