かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『遠い水平線』

 

スピーノはとある港町の寂れた病院の遺体安置室に勤めている。
彼は、遺体の側で過ごしながら生者と死者のあいだの距離は、そもそも、そんなに大きいのだろうか。と考える。
そうして少なくても彼らは、番号札で分類されているなんてきっと嫌に違いないと、それぞれの遺体にあだ名をつけて、その名前で呼びかけることにしている。
もちろん、心の中でのことではあるけれど。

ある日、スピーノの職場に、身元不明の青年の遺体が運ばれてくる。
警察が踏み込んだ現場で犯行グループの仲間によって撃たれたのだというその青年が、所持していた身分証明書は偽物で、いつまでたっても身内だと名乗り出る者もいない。

スピーノはその身元不明の遺体のことが気になって、独自に調べはじめるのだが……。


生と死について語りはじめる冒頭はちょっぴり哲学的で、恋人とのあれこれを描くあたりの心理描写は繊細で、小さな手がかりを元に調査をはじめればサスペンス調と、読みながら全体像をつかみきれずに戸惑う。

スピーノの行く手に危険が迫っているに違いない!と、読み手の緊張感が高まったところで、1羽のカモメにスパイ容疑がかかる………。

ああそうか。
ジャンルも筋もつかみきれなくても良いのだ。

生と死も、空と海も、物語と現実も
あるはずの境目に行き着くことは難しい。

ならばいっそ溶けてしまおう。
空の青さと海の青さが溶け合うように。

私もスピーノとともに物語の中を漂うように……。

               

                  (2014年09月27日 本が好き!投稿