かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『夢の中の夢』

 

灌木の茂みの下から、隠しておいた羽根と鑞を取り出したのはイカロスの父、ダイダロス

居酒屋でしこたま飲み食いする様子をじっと見ていたキリストに、“私の絵を描くように”と言われたのはカラヴァッジョ。

病院の大部屋で拘束着を着せられて、白衣の医者から「あなたはものなど書いてはいけませんよ。思索が過ぎますからね」と言い放たれるのはチェーホフで、女性の身体に入り込んだのはフロイトの意識。


詩人に画家、作家に音楽家など20人の芸術家たちが、あるいは本当に見たのかもしれないと思えるような夢を、妖しげに、鮮やかに描き出すのはアントニオ・タブッキだ。

いつものように幻想的に、それでいてシリアスに語られる夢の数々。
芸術家たちは夢を見て、夢にうかれ、夢に苦しむ。


愛娘から贈られたという手帳のページをめくりながら、タブッキが会いたいと思っていた芸術家たちの夢を書き付けたというこれらの物語は、主人公となった芸術家たちの夢であると同時に、タブッキ本人が見た夢でもあり、本のページをめくる読者である私たちが、ページの合間にみる夢でもある。
そうしてあるいはもしかすると、私たち自身も、誰かの夢の中の登場人物であるのかも……。


幻想的な世界に心地よく身をゆだねながら、私もタブッキの夢をみる。
約束された幸せなひととき。

              (2013年09月19日 本が好き!投稿