かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『クリスマスとよばれた男の子』

 

ニコラスは木こりの父ちゃんとねずみのミーカという二人と一匹で暮らしていた。
母ちゃんは数年前、クマにおそわれたときの事故で死んでしまったのだ。
ニコラスの家はフィンランドで2番目に小さかった。
「木でつくったそり」と「カブに目と鼻と口をほっただけの人形」、これが11歳のニコラスがこれまでもらったクリスマスプレゼントのすべてだった。
ちなみに彼の誕生日はクリスマスだったから、これらは誕生日プレゼントもかねていたものと思われる。

楽な暮らしではなかったけれど、ニコラスは平気だった。
家が小さくても、欲しいおもちゃが買ってもらえなくても、ゆたかな創造力さえあれば、楽しく過ごすことができる。
ニコラスは起きているときも夢の中にいるように、ピクシーだのエルフだのといった魔法の世界のことを考えて過ごしていたのだった。

けれども、父ちゃんの考えは少し違っていたらしい。
ある日、父ちゃんは、この貧しい暮らしを抜け出すことを夢見て、賞金を稼ぐために、エルフが暮らす村を探しに旅に出た。
ニコラスを意地悪なカルロッタおばさんに預けて。

何日、何週間、何ヶ月待っても、父ちゃんは帰ってこなかった。
カルロッタおばさんのいびりは、日に日に激しくなり、ニコラスはとうとう家を出る決心をした。
父ちゃんを探すため、ねずみのミーカと共に、ひたすら北へ北へとエルフの村をめざしたのだった。

人間の男の子がサンタクロースになるまでを描く物語は、「ファーザー・クリスマス(サンタクロース)はどんな子供だった?」との息子の問いかけに着想を得たという著者が紡いだファンタジー

世界各国の様々なサンタクロース伝説を取り入れて、サンタクロース誕生秘話を語るとともに、主人公のニコラス少年の成長をも語りあげる。

クリスマス物語ではあるが、物語がはじまる以前から既に当たり前のこととして“クリスマス”もクリスマスに贈り物を贈り合う風習も存在しているという前提のため、キリスト生誕にまつわるような宗教的なエピソードにはほとんど触れられていない。
あえて宗教色を排したエンタメ小説といえるだろう。

フィンランドを舞台にした児童文学ではあるが、作者も挿絵を担当した画家もイギリス人。
ちょっぴり不気味ではあるが、ユーモアたっぷりのふんだんな挿絵とともにやまねこ翻訳クラブの杉本詠美さんによる読みやすくリズムカルな文体が、児童文学としては少し長めの300ページほどのボリュームを一気に読ませる。
既に映画化も決定しているというのもうなずける、勢いのある冒険譚だ。

                  (2017年12月24日 本が好き!投稿

 

追記:2021年11月24日、Netflixにて映画配信が始まりました。