かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『万葉と沙羅』

 

タイトルだけでは内容を推し量ることはできないが、
装丁からどうやら本か本屋をテーマにした話だろうと推測して手に取ってみたYA小説。

同年代より1年遅れて都立の単位制の通信制高校に入学した少女、沙羅は、
幼い頃に隣に住んでいて仲良しだった少年、万葉と再会する。

はじめのうちこそ、沙羅を無視するかのような態度を取っていた万葉だったが、
それぞれが抱える事情を知るにつけ、急速に接近する。

改めて二人の縁をつないだのは、万葉がいつも読んでいる本だった。

専らゲーム三昧で、本なんてほとんど読んだことがなかった沙羅が
少しずつ本を読むようになり、
同じ本を読んで感想を語り合うようになった二人は、
互いの思いがけない受け止めに新鮮な驚きを覚えたりもする。

同じ風景を見て、思い起こすことが全然違う、当たり前だけどね。
同じ言葉でも人によって意味とか重さとか、やっぱり違うんだね。


主人公の二人は男の子と女の子で、
お互いを大切に思っているが恋愛関係にはない、
そんな爽やかさも読み心地がいい。

そんな万葉と沙羅を温かく見守るのは、
万葉がアルバイトをしている古書店主でもある万葉の叔父さんだ。

やがて万葉は通信制の大学へ進学、
沙羅にも本の話ができる新しい友人ができる。
ふたりは、それぞれ悩みを抱え、それぞれの日常を過ごしながら、
自分の進む道を模索する。

本の話題も豊富で
「個性は本の選び方じゃなく、読んだ感想に出る」
という言葉も印象的だ。

伊藤計劃の『ハーモニー』や福永武彦の『草の花』、
今度こそ読んでみようかな。

続編があったら読んで見たいな。
そんな風に思える物語。

だがしかし、読んだはしからすぐにレビューを書き始める私など、
ある意味日記を公開するより赤裸々かもしれない。