かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『春の宵』

 

書肆侃侃房の韓国女性文学シリーズは
全部読もうと決めているので
事前に内容をチェックすることなく本を手にした。

読み始めたらなんだか無性にお酒が飲みたくなって
なんだろうこの気持ちと思っていたら
途中でこの短篇集の原題が
「안녕 주정뱅이(アンニョン 酔っ払い)」だと知って
思わず苦笑いしてしまった。

アンニョン(안녕/安寧)という言葉は、
「やあ!」とか「おはよう」とか「こんにちは」とか「じゃあまたね!」
などというときに使う言葉だというから
原題を知ったところで
作者が酔っ払いに「こんにちは!」と呼びかけているのか
「さようなら!」とお別れを言っているのかはわからないのだけれど
以前はともかく最近では年に数度、
片手で数えられるぐらいしかアルコールを口にしない私でさえ
韓国焼酎やウイスキーとはいかないまでも
白く濁ったマッコリあたりをちびちびと飲みたくなってしまうのだから
作者や登場人物たちはもちろん、
読者もまたこの本を読んだところでお酒と決別できないことは間違いない。


収録されている7つの短篇の
いずれの作品にもお酒を飲むシーンがある
一人で飲む酒であったり
別れた恋人の姉と飲む酒であったり
学生時代の友人と飲む酒であったりするのだが
いずれの酒もあまり楽しいものではなく
アルコール依存症のためにやめるに止められない酒であったり
後悔するような深酒だったりもする。

救いようのないほど悲しい酒もあれば
不吉な余韻が残るものもあるのだけれど
読後の後味は決して悪くなく
悪酔いする心配もない。

おまけに酒の肴として登場するあれこれがまた
どれもおいしそうだったりもする。


春宵一刻直千金、花有清香月有陰
収録作品のタイトルからとった邦題から
蘇軾の漢詩を思い浮かべる。
少し季節外れではあるけれど、
花香り、月は朧で、何となく心を誘われ、
ぼんやりと空を見ながら今宵は一献傾けたい。

誰かの心の奥底をのぞき込みながら、
寂しいときには寂しいと口に出してもいいではないか。
たとえその言葉を拾って慰めてくれる人がいなくても
お酒の入った杯を片手に
ちょっとくだを巻いてみたっていいではないか。
そんな気分になる1冊だった。

 

<収録作品/原題>
・春の宵 / 봄밤        
・三人旅行 / 삼인행
・おば(イモ) / 이모
・カメラ / 카메라
・逆光 / 역광
・一足のうわばき / 실내화 한켤레
・層 / 층

                  (2018年08月01日 本が好き!投稿