かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『モンスーン』

 

創刊10周年を迎えた白水社のエクス・リブリスの
記念すべき60作目が韓国文学だと知ったときから
この本は絶対読もうと心に決めていた。

作者のピョン・へヨン氏が韓国国内だけでなく
米国のシャーリイ・ジャクスン賞を受賞するなど
現代韓国文学を代表する作家であることは知っていたが
気になってはいるものの
『アオイガーデン』も『ホール』も未だ読んだことがなかったから、
どうせならその作風やら傾向やら
事前にあれこれ情報を仕入れずに
真っ新な状態で読もうと思って読み始めた。

だがしかし、
まさかこんなに怖い話ばかりだとは夢にも思わなかった!!
しかもこの半端じゃない「怖さ」ときたら、
ちょっと変わっていて、
“背筋が凍る”という類いのものではなく、
生暖かい空気が妙な圧を持って
身体にまとわりついてくる。

夫や妻、派遣社員や工場長、上司や部下、脱サラした自営業者……
ごく普通の生活を営んでいるはずの人々が抱えるこの閉塞感はなんだろう。

息苦しいほどにものすごく湿度が高くて、
読んでいるだけでなんだかじわーと汗が出てくるような気がさえする。

例えば「同一の昼食」の主人公は
毎日昼食は大学構内にある食堂でAセット定食を食べる男だ。
ライスとスープとキムチに日替わりの3種類のおかずがつくが
いつも大して代わり映えがしないから、
仕事を終えて帰路につくころにはなにを食べたか覚えていない。
そんな風に日々同じ時間に同じ場所で同じような昼食をとることで
彼は昨日と今日の昼が同じであることを実感し
今日の夜と明日の夜が変わらないことを確信する。

ああその感じ、わかる気がする……と思っていたら大間違い!?

日々変わらない毎日を過ごしているつもりだったのに…
そこから抜け出したはずだったのに……
どこかへ向かっているはずだったのに……

ごく「普通」の人々の生活を描いているようなのにとても不条理で
そこで終わるかー!と髪の毛をかきむしりたくなるにもかかわらず
読後感は悪くない。

9つの短篇を収録した短編集は日本語版オリジナル。
韓国で最も権威ある文学賞・李箱文学賞を受賞しているという
表題作「モンスーン」をはじめ
その完成度の高さは折り紙つきだ。

[収録作品]
モンスーン
観光バスに乗られますか
ウサギの墓
散策
同一の昼食
クリーム色のソファの部屋
カンヅメ工場
夜の求愛
少年易老

           (2019年09月02日 本が好き!投稿