かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『小鳥たち マトゥーテ短篇選』

 

東宣出版の“はじめて出逢う世界のおはなし”シリーズは、なかなか興味深いラインナップ。
お値段は少々高めではあるけれど、できれば片っ端から読んでみたいと思う気になるシリーズだ。

そのシリーズに、翻訳家の宇野和美さんが長年翻訳したいと思い続けてきた、二十世紀スペインを代表する女性作家アナ・マリア・マトゥーテの作品集が加わると聞いたら、手を伸ばさないわけにはいかない。

掌篇と言ってもいいぐらい短いものも多いが、どの作品もとても繊細で詩的で美しい。

収録されているのは21篇。
森の中で小鳥と戯れる少年を見かけた少女
宝物を見つけたことで人が変わってしまった男
露天の景品で「島」を手に入れた少年
お月様が欲しいとねだる少年
どうしても祭に行ってみたかった娘

昔語り風の物語たちには、貧しさや不条理な社会にあえぐ人々の苦しく切なげな息づかいが聞こえてくるようなものも多い。
とても現実的であると同時にどこか幻想的で、楽しいとか悲しいとかいうこともなく、心温まることも涙流すこともないが、なぜだか忘れがたく、なにかが心にしみてくる気がする。

それがなんなのか、今ひとつわからずに、少し間を置いて、同じ話を二度、三度と読んでみたりもするのだが、つかんだと思うと指の間からするりと抜けていくような不思議な読み心地がクセになる。

枕元において、思い出したように一つ二つ読み、物語の世界に浸りながら眠りにつく。
そんな読み方を続けている。