かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』

 

元々、SFには強い苦手意識を持っているにもかかわらず、
何故この本に手を伸ばしたかと言えばそれはもう
いうまでもなく ケン・リュウの名前に惹かれたという
ミーハーな理由でしかないのだが、
苦手と言いつつもロシアSFなどには結構好きな作品もあるので
(中国のSFだって案外いけるかも?!)という期待がなくもなかった。

とはいえ、中国SFってどんなもの?と、
首をかしげながらページをめくると
巻頭に掲げられた序文でケン・リュウ

“中国SF”の特徴を自信たっぷりに断言する人間は、
(a)話題にしているものについてなにも知らない部外者であるか、
(b)なにがしかは知っているものの、
対象物の議論の余地のある性質を意図的に無視し、
自分の意見を事実として表明する人間であるかのどちらかである

に違いないと指摘している。

うーん。なるほど。そうかもねえ。
ひとくちにSFといってもいろいろあるものねえ。
と、まあ、納得したようなしないような曖昧な気分で、
ページをめくり続けるとこれが……

いやいや、すみません!!
本当にすみません!!
いろいろでした。
ひとくくりになんかできませんでした!!
と、全力で謝りたくなってしまうようなアンソロジーだった。

24時間毎に北京の街が回転し、人々の生活も分断されているという表題作は、
続きが読みたい!と思わせる抜群の面白さだし、
オーウェルの 『一九八四年』のオマージュのような「沈黙の都市」も好み。
百鬼夜行街」には水木しげるの世界のような懐かしさを感じ
「童童の夏」もロウジンスキーにはたまらない。
秦の始皇帝指揮下3百万の軍隊を用いた驚異の人間計算機の顛末が語られる「円」は、
ケン・リュウの翻訳で翻訳長編としては初めてヒューゴー賞を受賞したという
『三体』から抜粋した章の改作だというのだが……いやいやこれは、全部読みたい!
『三体』丸ごと読んでみたい!!

ケン・リュウが選んだ7人の作家の13作品を
自ら英訳して組んだアンソロジーの翻訳版なので
いずれの作品も重訳だ。
中国語からの直訳と読み比べてみたい気がしないでもないが、
いずれの作品も読みやすく、こなれた訳文だった。


【収録作品】(★印はお気に入り度)
序文 中国の夢/ケン・リュウ(★★★)
鼠年/陳楸帆(★★★)
麗江の魚/陳楸帆(★★★)
沙嘴の花/陳楸帆(★★★)
百鬼夜行街/夏笳(★★★★)
童童の夏/夏笳(★★★★)
龍馬夜行/夏笳(★★)
沈黙都市/馬伯庸(★★★★★)
見えない惑星/郝景芳(★★)
折りたたみ北京/郝景芳(★★★★★)
コールガール/糖匪(★★)
蛍火の墓/程婧波(★★★)
円/劉慈欣(★★★★)
神様の介護係/劉慈欣(★★★)
エッセイ/劉慈欣(★★★★)
エッセイ/陳楸帆(★★★)
エッセイ/夏笳 (★★★)
解説/立原透耶(★★★)

               (2018年03月26日 本が好き!投稿