かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『月の光 現代中国SFアンソロジー 』

 

『折りたたみ北京』に続き、ケン・リュウが編んだ中国SFアンソロジー第2弾!
『折りたたみ北京』刊行以降、日本でも単行本が刊行された劉慈欣、陳楸帆、郝景芳を含めた14人の作家による16作品に加え、これまたなかなか読み応えのある中国SFをめぐる3つのエッセイが収録されていて、前回よりさらにボリュームアップし、バラエティーにも富んでいる。

ただし「序文」でケン・リュウ自身が、このアンソロジーには「中国SFの代表的な作品を集めるという意図」がなく、「いわゆるベスト選集」ではない表明しているので、その点には注意が必要だ。
編者本人が楽しめた注目作品を紹介するというスタンスなので、この本を気に入るかどうかは読者と編者であるケン・リュウの好みが合うかどうかという問題だというのである。
そういわれると、ケン・リュウ作品ファンの私としては、かえって期待が高まるというもの。
その期待に十分に応えてくれる1冊だった。

収録されている作品は、タイムトラベルものあり、歴史改変ものあり、ファンタジックなものもあれば、人の心の内側をのぞき込むのもあり、わずか数ページのものから中篇までその長さもいろいろだ。

期待していた郝景芳の「正月列車」はたった5ページ!
しかもその中に2つも図が含まれている!
それって詐欺では!!と思うものの、悔しいかなこれがなかなか面白い。

宝樹の「金色昔日」は70ページほどの中篇なのだが、これがもうとにかくすごい。すごすぎる。
あえて内容には触れないが、本書においてはイチオシだ!

飛氘の「ほら吹きロボット」はどことなくカルヴィーノの思わせる寓話調。

ゲームには全く興味が無いため、このテの作品は苦手かも……と少々構えて読み始めた馬伯庸の「始皇帝の休日」は意外なことに面白かった。

劉慈欣の「月の光」なんて、最初から最後までただ携帯電話をかけているだけなのに、読ませるなあ本当に!

王侃瑜の「ブレインボックス」は、おそらく読者の好き嫌いがはっきり分かれそうな作品なのだが、私にはかなりツボだった。


【収録作品】
※★印はお気に入り度:但し、星が少ないものはおもしろくないというより、私の理解が追いつかなかったといった方がいいかも。

序文/ケンリュウ(★★★★)
おやすみなさい、メランコリー/夏笳(★★★)
晋陽の雪/張冉(★★★★)
壊れた星/糖匪(★★★)
潜水艇/韓松(★★★)
サリンジャー朝鮮人/韓松(★★)
さかさまの空/程婧波(★★★)
金色昔日/宝樹(★★★★★)
正月列車/郝景芳(★★★★)
ほら吹きロボット/飛氘(★★★)
月の光/劉慈欣(★★★★) 
宇宙の果てのレストラン――臘八粥/吴霜(★★★)
始皇帝の休日/馬伯庸(★★★★)
鏡/顧適(★★★★)
ブレインボックス/王侃瑜(★★★★★)
開光/陳楸帆(★★)
未来病史/陳楸帆(★★)

王侃瑜/エッセイ・中国SFとファンダムへのささやかな手引き(★★★★)
宋明煒/エッセイ・中国研究者にとっての新大陸:中国SF研究(★★★)
飛氘/エッセイ・サイエンス・フィクション:もう恥じることはない(★★★)
解説/立原透耶(★★★)

            (2020年04月15日 本が好き!投稿