かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『円 劉慈欣短篇集』

 

はじめて読んだ劉慈欣作品は、ケン・リュウが編んだアンソロジー 『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』に収録された「円」だった。

この作品を初めて読んだときの私の感想は

秦の始皇帝指揮下3百万の軍隊を用いた驚異の人間計算機の顛末が語られる「円」は、ケン・リュウの翻訳で翻訳長編としては初めてヒューゴー賞を受賞したという『三体』から抜粋した章の改作だというのだが……いやいやこれは、全部読みたい!

というものだったが、実を言うと『三体』、未だ手つかずだ。

2番目に読んだ劉慈欣作品もやはりケン・リュウが編んだ 月の光 現代中国SFアンソロジーに収録された「月の光」で、こちらもなかなか面白かった。

ちなみにこの短編集の中にも上記2作が収録されているのだが、前述のアンソロジーに収録されていたのは、中国語から英語に翻訳したものをさらに日本語に翻訳した重訳だったのに対し、今回は中国語の原書を元に改稿したものだとのことだ。

本書には、上記2作を含め全部で13篇の短篇が収められていて、中には既にSFマガジンなどで翻訳紹介済みの作品もあるが、いずれの作品も読み応えたっぷりなので、再読、再々読しても損は無い。

初読の11作品のうち、とりわけ印象的だったのは、炭鉱の衰退を描いた社会派作品と思いきや、意外な展開が待ち受ける「地火」。いやはやこれは、すごかった。
貧しい村で子どもたちの教育に人生を捧げてきた教師の最後にあわや落涙というところで、あっ!これSFだったっけ!とあっけにとられる「郷村教師」漢詩に魅せられた超高度文明を持つ異星種属の“神”が、李白を超えるべく壮大なプロジェクトを立ち上げる「詩雲」あたりも忘れがたい。


やっぱり『三体』、読んで見るべき?


【収録作品】
鯨歌
地火(じか)
郷村教師
繊維
メッセンジャー
カオスの蝶
詩雲
栄光と夢
円円(ユエンユエン)のシャボン玉
二〇一八年四月一日
月の光
人生