かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『滞空女: 屋根の上のモダンガール』

 

周(まわ)るの周(ジュ)に、龍の龍(リョン)、
「“長い身を廻(めぐ)らせて世界を抱きとめよ”という意味なんだね。」と、夫が言う。

実家の厳しい暮らし向きが原因で、
二十歳になってももらい手が無かった周龍に
降って湧いたような縁談の相手は、ようやく数えで十五になるという若者。
ひと月の間に慌ただしく婚礼に至ったのは、
未熟な息子が独立運動にかぶれて家を出て行くことを恐れた親が
とにかく所帯を持たせることで足止めを図ろうとしたからだったと、
新婚初夜、“旦那さま”の打ち明け話から悟る新妻。

ところが、この結婚、
独立軍に身を投じる若き青年の決意を思いとどまらせるどころか、
夫婦揃って家出して、朝鮮独立闘争に身を投じることに!?


結果、夫を失い実家に戻り、
家族のために一身に働いていた周龍は、
父親から家族が食べていくためにと、
今度は親子ほども年の離れた地主との結婚を強制され家を飛び出る。

平壌で働き始めたゴム工場には、暴力をふるう男の上司がいて、
身を粉にして働いても、女工たちの賃金は日本人男性労働者の1/4、
朝鮮人性労働者に比べても1/2にも満たなかった。

その上さらに賃金を引き下げようとする動きに抗議し
少しでも状況を改善したいと労働組合に加盟し活動を始める周龍。

そんな彼女に目を留めた活動家の誘われて参加した
朝鮮共産党の勉強会では、
会場にたった一人の女性として発言する。
「ご結婚されている方はおいでですか」
「皆さんはお連れ合いが自分と同じ思想をお持ちだと思いますか。」
「皆さんはお連れ合いがいかなる思想をお持ちなのか
気にかけたこともございますまい。」

数々の名場面の中でも、特に印象に残ったシーンの一つだ。

女が女であるというだけで受ける多くの差別や理不尽な暴力。
女が女であるというだけで己の考えなど持っていないかのように扱われる理不尽。

1931年、平壌の小高い丘に建つ楼閣・乙密台の屋根に登り、
朝鮮の労働運動史上はじめて「高空籠城」と呼ばれる、
高所での占拠闘争を繰り広げた女性労働者、姜周龍(カン・ジュリョン)。

実在した人物を主人公に据え、その半生を描いた小説だとは聞いていたが、
これほどまでに心惹かれようとは思ってもみなかった。