かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『寝台特急 黄色い矢 (群像社ライブラリー)』

 

ペレーヴィンの作品を読むのは『宇宙飛行士オモン・ラー』に続いて2冊目。
今回は90年代初め頃に書かれた7つの作品を収録した中短編集だ。
ソ連邦解体直後の混乱期を反映して、いずれの作品にも強烈な社会風刺がこめられているのだが、決して古くさくはなくむしろ斬新で、それでいてどこか懐かしさが感じられる不思議な雰囲気を醸し出している。


お気に入りは「ニカ」。
同居するヴェロニカの奔放さに振り回される男を語り手にした短編。
語り手と共に読者をも手玉にとるニカが魅力的だ。


「ターザン・ジャンプ」も良い意味で読者を裏切るが、「ミドルゲーム」ではそれがさらにエスカレート。コールガールを狙った猟奇的殺人を扱ったものかと思いきや、物語は意外な方向へと進んでいく。


そうかと思えば、最後に収録された表題作「寝台特急 黄色い矢」は、人生を直球勝負で問うかのよう。
とはいえそこはペレーヴィン。ことはそう簡単には進まない。
それでも列車の中に閉じ込められた閉塞感に読み終えた後、思わず大きく息を吐く。


すっかり振り回されて、くたくたになりつつも、答えの出ないあれこれを思わず考えずにはいられない。
それこそがペレーヴィンの魅力なのかもしれない。


<収録作品>
幼年時代存在論
・ニカ
・ターザン・ジャンプ
・水晶の世界
・ミドルゲーム
・天上界のタンバリン
寝台特急 黄色い矢

                 (2013年04月10日 本が好き!投稿