ある日、目覚めたら見知らぬ小さな部屋にいた。
その部屋にあるのはベッドとパソコンのみ。
「いったいここはどこなんだ?」
現状を把握するためパソコン画面を覗き込むとチャットルームが現れる。
いくら試みても他のサイトへは移動できない。
「誰かいるかい?」
お互いに呼びかけあって応答したのが男女8人。
迷い込んだのは「恐怖の兜」をかぶった巨人の世界?
その正体は牛の頭を持つ怪物ミノタウロス?
ギリシャ神話の世界なのか?
奇妙な飾りのついたドアの向こうには8人8様の風景があるものの、
部屋を出たところでどこに行けるわけでも無く
結局また元の部屋へと戻ってくるしかない。
全編がチャット形式の「会話」で綴られた物語には
ネットの世界にありがちな微妙なズレや食い違いが現れ
空気を読まない人もいれば
やたらと仕切ってまとめたがる人がいたり
勝手に盛り上がるカップルもいて
時々チクチク痛かったり、むずむずとかゆかったりもするけれど、
スピード感があって読みやすい。
とりとめのないように思える「会話」の中に
時折見逃せない重要な情報が盛り込まれているのもまた同じか?
そんなことを考えながらページをめくっているうちに、
言いようのない閉塞感に襲われる。
ああ、これこそぺレーヴィン。
オモン・ラーの宇宙船や寝台特急で感じていたあの息苦しさがよみがえる。
広いと思っていた世界は案外狭く
あるとおもっていた終着駅にはたどり着くことがない。
本の中にも
ネットの世界にも
そして自分自身の中にも広がるもの
それこそが迷宮そのもの。
(2014年05月04日 本が好き!掲載)