かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『自由研究には向かない殺人』

 

巷で話題のミステリとして、気になってはいたのだけれど、実物を手に取ると570ページとずしりと重い。

繁忙期の上、最近とみにこらえ性がなくなってきているから、最後まで読み切れないかも……と思いつつ、ページをめくり始めたのに、読み始めたら途中でやめることが出来ずに一気に読んだ。


グラマースクールの最上級生で、ケンブリッジの受験を控えている主人公のピップは17歳。
そんな彼女が今、真剣に取り組んでいるのが自由研究(EPQ)。

2012年、リトル・キルトンにおける行方不明者(アンディ・ベル)の捜索に関する研究

アンディ・ベルの失踪を例にとり、紙媒体/テレビ関連メディアおよびソーシャルメディアが、警察の捜査においていかに重大な役割を果たすようになったか、その考察を詳細に述べる。さらに、サル・シンおよび彼が有罪と目される件についての、各メディアの報道のあり方にも触れる。



この「自由研究」で、5年前に自分の住む小さな町で起きた失踪事件について調べようというのだ。
失踪当時、アンディ・ベルは今のピップと同じ17歳だった。
その消息はわからないままだったが、交際相手だった少年サル・シンが大量の睡眠薬を飲んで死亡したことから、彼が彼女を殺したあと、自らも命を絶ったのだとされていた。

だが、サル・シンを知るピップは、どうしても彼が犯人だとは信じられずにいたのだ。

そこで、亡きサルの無実を証明するために、自由研究を口実に関係者にインタビューを試みるのだが、あれこれ調べていくうちに、次から次へと身近なあの人、この人が、怪しげに思えてきて……。

小さな町で起きた事件の真相を調べていくと、誰も彼もが秘密を抱えていて……というのはミステリにはよくあるパターンではあるけれど、ティーンエイジャーが、自由研究の課題として謎解きに挑むという設定が新鮮。
ピップがいかに優秀な学生だとはいえ、思いっきり危なっかしいので、その設定がスリルとスピード感を増幅させもする。

原題は“A Good Girl's Guide to Murder”
2020年のブリティッシュ・ブックアワードのチルドレンズ・ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞したというこの作品。
本国ではYA小説という扱いなのかもしれないが、読みやすさの点ではなるほどと思いはするものの、暴かれる秘密の中にはなかなかにどぎついものも。
今どきの若者の“すごさ”に関心しこそすれ、色々な意味で侮れない。
それにしても、まさかこの歳になって、高校生の「自由研究」に翻弄されて目の下に隈を作る羽目になろうとは!?