かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『バンビ 森に生きる』

 

『バンビ』ときけば、すぐにディズニーアニメを思い浮かべる私ですが、そういえば、あのアニメ、通しで観た記憶が無いし、原作も未読だった!と、祝 #福音館70周年 記念読書会に参加すべく、あれこれ本を探していたときに目を留めたのがこの本。
翻訳はなんと!毎度毎度ドイツ文学でお世話になっている酒寄進一さんです!

これは読まなくては!と、早速ページをめくってみてびっくり。
読む前に想像していたような“かわいい”話では全くなく、森に生きる動物たちの営みが、その厳しさも含めて、いきいきとでも大まじめに描かれた物語でした。

その子は、しげみの奥で生まれました。
こんな書き出しで始まる物語は、バンビの誕生からはじまり、お母さんの愛情を一身に受けながら、好奇心一杯の知りたがり屋の子鹿になり、さまざまな動物とふれあいながら、さまざまな経験をして、やがて一人前のノロジカへと成長し独り立ちしていく様が描き出されています。

喜び、悲しみ、恐怖、孤独。
美しい風景や、楽しい出会いもあれば、寒さに凍え、飢えに苦しみ、恐ろしい敵の手を逃れて逃げ惑い、仲間の死に立ち会わねばならないことも。

バンビを導くノロジカの古老の格好よさは別格として、返事がなくても一方的に喋り続けるカササギや、誰かをおどろかすのが大好きでプライド高いフクロウ、すばしっこく動き回り、時には白い胸を張って、ちょこまかと前脚を動かすリスなど、森の仲間たちのリアルでユーモラスな描写の楽しさもまた格別。

一つ気になったのは、とても恐ろしい「アイツ」のこと。
母さんが口にするのも躊躇うほど恐ろしがる「アイツ」、2本足で立ち、とても痩せていて、青白い顔をして鼻や目の周りに毛がありません。
目撃者の証言を集めると、前足は2本という者も3本という者もいて、3本目は火を噴くという話も。雷をつれてくるのだと言う者もいました。
その「アイツ」の正体は、言葉でははっきりと明かされません。

それだけにまた、文字だけをたよりに読み進めると、あれこれ想像が膨らんで、とりわけ小さな読者には、おそろしく感じられるのではないかとも思うのですが、挿絵によって意外とあっさりとその正体が明かされてしまいます。

え?いいの?と思ってしまったのは私だけでしょうか?

訳者のあとがきによれば、1923年に刊行された初版には挿絵がなかったのだとか。
この本の挿絵は1940年にスイスで刊行された版から採用したとのこと。
素敵な挿絵には違いないのですが、すっかり森の仲間目線で物語に浸っていた私としては、「アイツ」の正体については、もう少し引っ張ってくれてもよかったかなあという気もしました。

とはいえ、物語が読み手を自然豊かな森の中へと誘ってくれることは間違いなく、ページをめくりながら思わず、鳥のさえずり、木々のざわめき、動物たちの足音に耳を傾けたくなるのでした。

 

※おまけ画像は北国の森の仲間たち。

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エゾジカ

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エゾリス

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キタキツネ