かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『春』

 

『秋』『冬』につづく、四季四部作の三作目、待望の『春』だ。

凍てつく大地を突き破って、いの一番に顔を出すクロッカスの新芽。
初々しい緑を見つけて喜ぶのはつかの間、よく見れば周りには、雪に埋もれていたゴミが散乱していたりする。
そんな春。


あなたは、キャサリンマンスフィールドリルケが、ほぼ同じ時期にスイスにいたことを知っていたか。
それはつまり、ベラ・パウエルの『四月』という小説を映像化する話なのだ。
そう言われて原作を読んでみたら、絵はがきをモチーフにして、こんな風に…と、色々なイメージが湧いてくる。だが、彼とでは撮れない。
あのコメディーみたいなセックスシーンばかりを入れたがる脚本家とは。
彼女とならば、良い作品が撮れたかもしれないが…。
そう、テレビ映画監督リチャードは、長年の相棒だった脚本家のパディーの死に打ちのめされているのだ。
そんなわけで…と、いう説明で彼自身が納得するかどうかはわからないが、老人は一人、スコットランド北部にある小さな駅にたたずんでいる。

その同じ駅に降り立つ、少女と若い女

移民収容施設で働きながら、これは仕事と割り切っているつもりで、割り切れない、複雑な想いを抱えているその若い女性は、通勤途中に出会った少女に惹きつけられて、同じ列車に乗り込んできた。

不思議な力を持つ少女。

現実離れした奇妙な出来事。

だが、考えてみれば、移民収容施設の中で日々繰り広げられている、悲惨なあれこれもまた、ありえないほど「現実離れ」した悲惨さで。

EU離脱に揺れ、移民排斥が進むイギリスという、一見堅苦しいテーマを、山ほどの悪態と、作中作にアート作品、人間くさいあれこれに、浮き世離れしたあれこれを加え、軽妙で饒舌で、一見すると読む者を煙に巻くかのような語り口でありながら、そのじつ心の臓をぐさりと突き刺すように鋭く語りあげる。

この物語の魅力を、私は今回もまた上手く説明することが出来ない。

けれども、とても好きなのだ。
なにがなんでも四部作全てを読み通し、さらには全て通して読み返さなければならないと、固く心に誓わずにはいられないほどに。