12篇の作品が収録された本書は、アメリカの作家ダイアン・クックのデビュー短篇集Man V. Nature(2014)の全訳。
夫に先立たれた“わたし”が連れて行かれたのは女性用シェルター。
持って行くのを許されるのはかばんふたつ分の荷物だけ。
夫にかかわるものは写真1枚でも取っておくことは許されない。
家も車も没収され、売り出されて、売り上げは“わたし”の持参金に加えられる。
シェルターでは料理、裁縫、受胎、育児等々各種講義の受講を薦められ、「夫を亡くした妻が前に進むために」というセミナーは強制参加だ。
そうここは、配偶者を亡くした男女が再婚に向けた再教育を受けるための収容先なのだった。
巻頭作「前に進む」は、なんともゾワゾワとした落ち着かない読み心地で、読み終えた後、思わず夫の顔を盗み見てしまう。
大洪水に見舞われた街の中でかろうじて水没を免れた自宅に立てこもり、助けを求める人々をことごとく追い返して自分一人生きのびようとする男の物語。
「最後の日々の過ごしかた」は、2016年のO・ヘンリー賞受賞作品。
ありがちのようにも思える設定でこの展開!?
夢に見そうなゾクゾク感だ。
ほんの一瞬、隙を見せた母親から赤ん坊をさらっていく男。
いったいなにがどうなっているのか、細かい説明は一切なし!
突きつけられる不条理から目が離せない「だれかの赤ちゃん」は、2012年カルヴィーノ賞受賞作品。
表題作「人類対自然」では、子どもの頃から親友だった3人の男性が繰り出したボートが遭難。
日に日に助かる見込みがなくなっていく中で、突きつけられる“真実”が、なんとも…。
プレゼンの最中にいきなりなりだした警報。
自分たちだけは助かるべく手を打っていたはずの重役たちも、次第においつめられて…。
影も形もわからないが、とにかく怖い「やつが来る」!!
抽選で“不要”と認定された子どもたちが繰り広げる生存競争。
「不要の森」のラストには思わず変な声が出る。
どの作品もダークで奇妙で、愚かしくておかしくて、寂しくて哀しくて、でもなんだか妙に惹きつけられる。
ちょっと忘れがたい作品集だ。