かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『オオカミが来た朝』

 

1935年、大不況下のオーストラリア。
父親が急死したため、14歳の内気な少年ケニーは、赤ん坊を抱えた母親とまだ幼いきょうだいたちという6人もの家族を養うため、学校を辞め、工場へ仕事を探しに行くことに。
真冬の早朝、自転車をこぐ身は冷え切り、決して寄り道をしてはならないと母親に言われていたにもかかわらず、ちょっとだけたき火にあたろうと荒地に足を踏み入れる……。
  (「オオカミが来た朝」)

1957年。ケニーの二人の娘、クライティとフランシスはけんかばかり。
そんなある日、二人の家に大おばさんがやってくることに。
母親はまるで自分に言い聞かせるようにつぶやいた「これで、かわいそうないとこのパティも一息つけるわね」
それっていったいどういうこと?
メイおばさんはとっても年をとっていて、夜中にソーセージを焼いたり、亡くなった親友を訪ねにいこうとしたりと、なんだかとってもおかしくて、姉妹はあれこれ振り回されて……。
(「メイおばさん」)

1954年~。3年生になったフランシスの前に、立ちはだかる年上の大柄な少女ボニー。
いい子を狙っていやがらせばかりするボニーは嫌われ者。
その後何年も同じ学年を繰り返し、フランシスが6年生のとき、ついに同じクラスに。
それでフランシスは知ることになる。
ボニーは字が読めないことを。
(「字の読めない少女」)

1975年。
ウガンダ難民のインド人の兄弟、カンティとラージは、学校の先生や同級生、近所の人々の無理解や差別に苦しんでいた。
兄のカンティは、鮮明に覚えていていつも自分を苦しめる悲惨な記憶を、せめて弟のラージが思い出さないでくれたらと思っているのだが……。
(「想い出のディルクシャ」)

1991年、イスラエル
フランシスは結婚して、夫と幼い息子とともにイスラエルに住んでいた。
人々は、近づいてくる戦争の気配におびえながら暮らしている。
そんなある日、息子のガブリエルが、季節はずれのイチジクをねだる。
いつも日曜日に買い物に出かけていた、アラブ人の市場にならあるはずだというのだが……。                
    (「冬のイチジク」)

2002年。クライティの孫のジェイムズに毎夜聞こえてくる「いやな音」。
それは両親がけんかをしてどなりあう声だった。
幼い弟のデイビーにはその「いやな音」を聞かせたくなくて、あれこれと奮闘するジェイムズだったが……。
   (「チョコレート・アイシング」)

1935年から2002年まで、巻頭表題作のケニーから彼のひ孫までの4世代。
多感な子どもたちを取り巻く、貧困、老い、移民、識字障害、戦争、両親の不仲…。
自分たちの力ではどうすることもできないあれこれの中にあって、それでも自らを励ましながら進んでいく子どもたちの姿を描いた、連作YA小説。

リアルで切なくて、一見はかなげででもたくましい。
静かなではあるけれど、胸が熱くなり、目が潤む、そんな物語。