かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『鳥は飛ぶのが楽しいか』

 

生きづらさを感じて、母国を出て行こうとするた若い女性の葛藤を描いた『韓国が嫌いで』

 

朝鮮半島を舞台にした近未来ディストピア小説『我らが願いは戦争』

 


全く違うテイストながら、あれやこれやを抱え込んだ人々の描き方が絶妙で、読み手に忘れがたい印象を残すチャン・ガンミョンの、今度の本は“労働小説”なのだという。

プロレタリア文学でもお仕事小説でもなく、ちょっと聞き慣れない“労働小説”という言葉に少々とまどいながらも、そこはチャン・ガンミョン、きっと期待を裏切らないだろうと読み始める。

巻頭作「バイトをクビに」は、女性アルバイトの勤務態度に手を焼いた正社員の女性が、彼女を解雇しようとする話。
(うわー、これはやっかいだ。そういえば、私もかつての職場で学生アルバイトを監督する立場になって、いろいろ苦労したっけ…)などと、すっかり管理職モードで読み進めると……。
ラストでそれまで見えていた風景が一変してしまう。

続く「待機命令」に、かつて人生の先輩たちから聞いた某大企業の嫌がらせ的な退職勧奨事案を思い出して溜息をつく。

(田舎の町にも、パン屋は結構あるのだけれど、ホームベーカリーを使うようになってから、滅多にいかなくなってしまったんだよなあ。)などと、思いながら読み始めた「ヒョンス洞パン屋三国志」では、お父さんが脱サラして始めたフランチャイズのコンビニをなんとか支えようと、家族総出で手伝っていた友だちの一家を思い出しも。

これまで生きてきて一番ツイてなかった日のことを話せって?そんな書き出しで始まる「みんな、親切だ」の語り手は、どうやら大手企業のサラリーマンのよう。だがその彼の一番ツイていなかった日に、彼の周りであれこれと汗を流した人たちの日常は……。
風刺の効いた印象深い作品だ。

「音楽の価格」の中で、最近は、『鳥は飛ぶのが楽しいか』という本を連作小説の形で書いているという著者を思わせる僕が、その内容を2010年代の韓国で働いて食っていく上での問題をテーマにして短編集を作っています。就職、解雇、リストラ、自営業者、再建築みたいなモチーフで短編を一つずつ書こうと思っています。全部で十篇でと説明する。
うーむなるほどそういうことか。

満を持してトリを担うのは表題作「鳥は飛ぶのが楽しいか」。
おおーそうか!そうきたか!!

ひゃーとか、ヒーとか、わあ!とか、思わず変な声を出しながら読んだ10編の連作小説。

読み終えて改めて振り返ってみて、「切る」「闘う」「耐える」という三部構成になっていることに納得する。
あそことここ、あの人とこの人と、うっすらとつながっているようにも思われて、また興味深い。

“虐げられた労働者”の側からだけでなく、様々な角度から韓国2010年代の労働の有様を描く”、なるほどこれが“労働小説”というものか。

もっとも自分は“虐げられてはいない”とか、“搾取されてはいない”などとと思っているであろうあの人この人も、ちょっと見方を変えれば……という気がしないでも。

突きつけられる不条理や不正義を前にして、避けて通るか逃げるのか、見て見ぬふりができるのか、それともあえて闘うか、読み手にそんな問いをつきつけてくる物語たちだ。