舞台はアフリカ・ナイジェリア。
ウムオファイア(森の人びと)と呼ばれる架空の村だ。
オコンクウォは親から受け継ぐ財産がないどころか、幼いころから働いて家族を養わなくてはならなかったが、勤勉な野心家であった彼は、一代で財産と名声を手に入れる。
物語は彼の生涯を縦軸に据えつつ、人びとの生活や古くからの信仰、習慣といったものを丁寧に描いていく。
一夫多妻制
神託により物事が決められる風習
コーラの実、椰子酒、ヤム芋、イナゴ
双子が生まれると森に赤子を捨てるという掟
人びとの守り神「チ」
興味深いものもあれば、思わず顔をしかめてしまうものもある。
異文化について見聞きするとき、自分の価値観を物差しにしてはいけないと自戒しつつも、嫌悪感をぬぐい去れない。
やがて白人がやってきて、人びとが堅く守ってきた一族の掟が次々と打ち破られていくのだが、その手段には懐疑的ではあるものの、植民地支配の侵略者であるはずの彼らがもたらす変化のあれこれに、どこかホッとする自分にとまどう。
「アフリカ文学の父」といわれるアチェべは、アフリカの伝統的社会に生きる人びとを描くことで、ヨーロッパの植民地支配が壊したものを浮かび上がらせ、その行為を痛烈に批判する…きっとそういう文学なのだろうと、作品を読む前から先入観を持っていたのだ。
昔からのアフリカの習慣を「古き良き」と一面的に評することなく、植民地政策がもたらしたあれこれを一概に「害悪」と決めつけることもなく、あれこれが入り交じったアフリカを赤裸々に描くことで読者の関心を強烈に引きつける。
あるいはそれこそが、作品の意図するものなのかもしれないなどと、一読しただけでは咀嚼しきれない物語に対し、言い訳めいた考えを抱いた。
物語はクライマックスを迎え、そして唐突に終わる。
だが時代は新しいページをめくったばかり。
失われたものがある一方で、脈々と受け継がれているものもある。
アフリカの苦難はこれからが本番だ。
その歴史に思いをはせながら、オコンクウォの孫の時代を描いたという別の未邦訳作品も、ぜひ読んでみたいと思った。
(2014年01月12日 本が好き!投稿)