かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『アメリカにいる、きみ (Modern&Classic)』

 

はじめてアディーチェに出逢ったのは
サイト献本でいただいた短篇集 『明日は遠すぎて』だった。

 

これがとても良かったので『半分のぼった黄色い太陽』』を読み
心をわしづかみされ
分厚い『アメリカーナ』も一気に読んだ。

 

 

 


その後、順番は逆になったが初の翻訳本であるこの本を読んだのだけれど
レビューは書かずじまいだった。


それは決して気に入らなかったから等という理由ではなかった。
この本には既に読み応えのある先行レビューがいくつも投稿されていたし
このサイトの中でもアディーチェの人気も安定したものになってきていて
あえてあれこれ書かずとも
ひとり余韻をかみしめれば良いような気がしていたからだ。

そんな私が今回この本を再読し
なにかしら書き残しておこうと思ったのは、
このほど河出文庫から出版された『なにかが首のまわりに』を読んだからだ。

「なにかが首のまわりに」が「アメリカにいる、きみ」という短篇の
改題だということは、本書収録の訳者あとがきで紹介されていたので
私はてっきり、今回出た新刊は
本書を文庫化したものだとばかり思っていたのだが、
そうではなくて、2009年に出版された原著初の短編集の翻訳版だった。

二つの短編集には重複する作品が収録されているというので
そのあたりのことを確認したいこともあって
今回この本を再読したのだが、
日本では原著で短編集が編まれる前に
邦訳版オリジナル短編集として
この『アメリカにいる、きみ』が出版されていたことを知り
その収録作品の選定眼のすばらしさにも改めて感じ入った。

本書の収録作品は以下の10作。
アメリカにいる、きみ」
アメリカ大使館」
「見知らぬ人の深い悲しみ」
「スカーフーひそやかな体験」
「半分のぼった黄色い太陽」
「ゴースト」
「新しい夫」
「イミテーション」
「ここでは女の人がバスを運転する」
「ママ・ンクウの神さま」

いずれの作品も主人公はナイジェリア出身のイボ人で、
親戚を頼ってアメリカに働きにきていたり、
夫は亡命し子どもが殺されて自らもナイジェリアを後にする必要に迫られていたり、
市場で買い物中に暴動に遭遇してしまったり、
アメリカで子育てをしながら、
アメリカとナイジェリアを行き来する夫の帰宅を不安な気持ちで待ちわびていたりする。
それぞれが置かれている環境は、
私にとって決して身近な状況とは言えないが、
そこに描かれている人種差別やジェンダー問題、
夫婦や親子や兄弟や、アイデンティティをめぐるあれこれは
私にとってもとても身近で、共感を覚えずにはいられない。

「半分のぼった黄色い太陽」は、これだけでも十分に読み応えがあるが
長編と読み比べてみるとさらに、アディーチェのすごさがよくわかりもする。
アディーチェの魅力が味わえる見事な短編集だ。

              (2019年08月30日 本が好き!投稿