かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『(033)月(百年文庫)』

 

1冊に3人の文豪の傑作を集めた、ポプラ社の短編シリーズ『百年文庫』。

帯にひとすじの光が胸の底に射しこむときというキャッチフレーズが添えられているこの『月』篇の収録作品は、ルナアルの『フィリップ一家の家風』、 リルケの『老人』、プラトーノフの『帰還』の3作。

ルナアルといえばやはり『にんじん』。
というか長い間『にんじん』しか知らなかったのだが、この作品のことは、以前読んだ芥川の『文芸的な、余りに文芸的なの中で、

たとへばルナアルの「フイリツプ一家の家風」は(岸田国士氏の日本訳「葡萄畑の葡萄作り」の中にある)一見未完成かと疑はれる位である。が、実は「善く見る目」と「感じ易い心」とだけに仕上げることの出来る小説である。

などと、かなり肩入れしている様子で語られていたので気になっていたのだった。

で、読んでみるとこれがなかなかしみじみとした作品で、こういう作品をかっている芥川のこともまた見直したりする。
なんだか偉そうで申し訳ないが、でも『フィリップ一家…』を読んだ後、あらためて『文学的な、…』読んで、(なるほどやるな芥川!)と思ってしまったのは事実なのだ。

続くリルケの『老人』の翻訳者は森鴎外
6ページほどの小品ではあるけれど、さすがリルケというべきか、さすが鴎外というべきなのか、光景がくっきり浮かんできてぐっとくる。

最後はやっぱりプラトーノフ。
原卓也訳のこの作品は、以前岩波文庫プラトーノフ作品集』で読んだことがあったのだが、ようやく我が家にたどり着いた帰還兵の苦悩……というには、夫であり、父親であるこの男がなんだかねえ、どうなのよお……と、文句の一つや二つ、三つや四つ言いたくなるところで、このラスト!知っているはずなのに思わずホッとして、ほうっと感心してしまうのもお約束。