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『左川ちか全集』

 

左川ちか全集

左川ちか全集

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左川ちかは1911(明治44)年、北海道に生まれ。
小樽の女子校に通っていた頃、兄の親友伊藤整と知りあう。
学校を卒業後、兄を頼って上京し、貯金局に非常勤で勤めながら、詩人たちと交流。
18歳で翻訳小説を発表し、その後も勢力的に活動したが、25歳の時、胃がんのため死去。

詩集が入手困難なこともあって幻の早逝詩人として長く神話化されていたが、近年再評価の気運が高まりつつあって、欧米や南米・イスラム圏など海外での翻訳も相次いでいるのだという。

絶版になっていたり、散逸していたりした作品を一冊の本にまとめた本書の構成は、作成年ごとに並べられた詩に続いて、ハリー・クロスビーやジェイムズ・ジョイスらの翻訳詩、ちか本人の散文・日記・書簡が続き、さらにはモルナール・フェレンツやヴァージニア・ウルフの小説や評論の翻訳文が収録されている。
巻末にまとめられた年譜、編者による解題と解説、ブックガイドも充実していて読み逃せない。

まずは詩編から…と、順番に読んでいったのだが、正直なところ詩については、色の使い方が独特だと思いはしたが、今ひとつその魅力が分からなかった。
ところが、後から解説を読み、その後改めて詩を読んでみると、それまで気づかなかったあれこれが浮かび上がってくるようで、新鮮な驚きが。

印象深かったのは、

 しばらく山も海も見ない。山が見たくなつた。風が吹くと何も彼もそのままにほつといて家へ帰りたいと思ひます。真暗な北の海の海鳴りがきこえてくるやうに思はれます。電車の音か知ら。やっぱり海鳴りです。

こんな書き出しで始まる、都会にあって故郷を思う「冬の日記」。

オルダス・ハクスリーの「イソップなほし書き」もとても面白く、ヴァージニア・ウルフの「いかにそれは現代人を撃つか」(評論)は、書いたウルフもこれを訳そうと思ったちかも最高!だ。

ちかの兄が、伊藤整に彼女との交際を勧めた話や、萩原朔太郎とちかとの縁談を断った話など、当時の文士たちの交友関係が垣間見られる点もまた興味深かった。