かもめもかも

かもめのつぶやきメモ

『狼たちの月』

 

狼たちの月

狼たちの月

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「どうしてそんなに眉間にしわを寄せているの?」と尋ねられて、
そんなつもりはなかったから、少し驚いて本から顔を上げた。

私はただただ、本の世界に浸っていたのだ。
難しい言い回しがあるわけではない、
詩人でもある著者の言葉は、
どこまでも平易で、どこまでも美しく、
翻訳の良さもあるのだろうが、言葉が調べを奏でているかのよう。

静かに淡々と陰鬱に描き出される過酷な物語であるにもかかわらず、
目の前に鮮やかに浮かび上がる光景が胸を打つ。


スペイン内戦の後、
フランコ政権に追われ1937年から46年までの9年間、
逃亡を続けた兵士たちの物語。
兵士と言っても元はみな、
鉱山労働者であったり、教師であったり、
ごく普通に生活を営んでいた男たちだ。


投降だけはするな。何があったも投降するんじゃない、いいな。さもないと、すでに大勢のものがやられたように、お前たちも次の日にその辺の側溝で死体になって転がる羽目になる


拷問を受けた父が逃亡中の息子に告げる言葉に胸が詰まる。


絶体絶命と思われる状況からの脱出や
家族が受ける拷問のむごさ、
孤独と飢え、絶望、尊厳……
ひとりまたひとりと仲間たちが死んでいく。
決して穏やかな気持ちで読み進められるものではないが、
それでも物語は、どこまでも静かでどこまでもひそやかだ。


私が スペインの作家フリオ・リャマサーレスの作品を手にしたのは
『黄色い雨』に次いで2作目だが、
実はこちらの「狼たちの月」の方が先に書かれていて、
小説家としての彼のデビュー作にあたるのだそうだ。


この翻訳者の手によって紹介される
彼の作品をもっともっと読んでみたい!
と、本を閉じた後に深いため息をつきながら、
思わず願ってしまうようなそんなすごい一冊だった。

          (2012年03月27日 本が好き!投稿